研究内容

基礎・トランスレーショナル研究

当科における基礎・トランスレーショナル研究

当科では「臨床応⽤」を⽬指した基礎研究、そして、臨床応⽤との橋渡しとなるトランスレーショナル研究にも精⼒的に取り組んでいます。企業との共同研究も産学連携として積極的に進めており、将来のがん治療につながる最新かつ実践的な知⾒が得られます。

免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測因⼦の検討(可溶性免疫チェックポイント分⼦)

当科ではこれまで様々な角度から免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測因子(バイオマーカー)の開発に取り組んでまいりました。本庶佑先生を代表者とする京都大学医学部免疫ゲノム医学教室と共同で行った可溶性免疫チェックポイント分子を用いた研究もその一つです。私たちは可溶性PD-L1分子と可溶性PD-1分子の血中濃度を組み合わせることで免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測できる可能性を見出しました。低侵襲である血液検査により、実施可能なバイオマーカーが確立できれば、それぞれの患者さんに最適な治療を行うことにつながります。

Kurosaki T, et al. JSMO2023

免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測因⼦の検討(RNAを⽤いた遺伝⼦発現解析)

免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測因子の研究として、遺伝子発現解析による研究も多数実施しています。腫瘍免疫関連の遺伝子の発現を測定し、免疫チェックポイント阻害薬が有効な集団に特徴的な遺伝子発現の特徴を探索しています。当教室内で検体の準備、測定、解析までの一連の流れを実施しています。これまで原発不明がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がんを対象に研究結果を報告してきました。現在も、複数のプロジェクトが同時進行しています。

Haratani K, et al. J Immunother Cancer 2019;7:251
Suzuki S, et al. Eur J Cancer 2022;161:44-54
Kanemura H, et al. JTO Clin Res Rep 2022;3(8):100373

多重免疫染⾊を⽤いた免疫チェックポイント阻害薬の耐性機序の検討

京都府立医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室との共同研究で、多重免疫染色法を用いてがんの免疫プロファイリングを行っております。

多重免疫染色は同一切片・同一細胞上で複数の抗原の局在を同時に検出することにより、それらの相互関係の観察・証明が可能となる方法です。我々は、非小細胞肺がんの腫瘍組織を多重免疫染色を用いてSinglecell解析を実施し、腫瘍細胞内における腫瘍抗原特異的なCD8サブセットが初期耐性の克服に重要であることを報告しました。今後、その他の細胞群についてもさらなる解析を予定しております。

Isomoto K et al. Lung Cancer. 2022;174:71-82.

オシメルチニブ耐性後の抗HER3抗体薬物複合体に関する基礎研究

肺がん細胞株を用いて第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害剤オシメルチニブ耐性株を樹立しました。この耐性株ではHER-familyの一員であるHER3の発現亢進を認め、抗HER3抗体薬物複合体U3-1402への高い感受性を示し、企業と共同で特許出願中です。現在、同治療薬はEGFR遺伝子変異陽性肺がんを対象に臨床開発が進行中で、オシメルチニブ耐性例で優れた抗腫瘍効果を発揮し、我々の研究が治療開発に有効活用されています。

Yonesaka K et al. Oncogene.2019;38:1398