医師インタビュー

専攻医(がんプロ院生)・大倉將生

近畿大学腫瘍内科に入局して開けた将来展望

近畿大学医学部腫瘍内科
専攻医(がんプロ院生) 大倉將生

付属高校から特待生として医学部に進学

私は和歌山県有田市の出身で、見渡す限り畑が広がるなかに民家が点在する、のどかな町に生まれ育ちました。祖父母は農業を営み、両親は公務員と専業主婦という家庭環境で育ち、医師の家系でも優渥な家庭でもなかったのです。
それでも、小学生のころに祖母が心臓病を患って大きな手術をしたり、祖父がアルツハイマー病を発症したりしたことから、「医学が進歩したといわれる今なお治療が難しい病気があるのはなんでだろう」と思い、漠然と医師という職業に興味をもっていました。

ただ、医学の道に進むためにはがんばって勉強しなくちゃいけないし、もう1つシビアな問題として私立大学の医学部は学費が高いという現実があり、行くなら国公立大学しかないだろうと覚悟していたんです。
近畿大学付属和歌山中学校・高等学校に進んだのも、実は大学に医学部があるからというわけではなく、地元では進学校として名が通っており、国公立大学の医学部に進む卒業生が多かったためでした。

1つ転機となったのは、大学受験を控えていたころ、近畿大学医学部に内部進学する際、高校時代にある程度の成績を残せていれば学費を免除してもらえる制度ができたことです。
しかし、この制度を利用するためには他大学と併願できないという条件があり、高校生の考えることですから「目指していた国公立大学医学部に比べ教育の質に差はないのか」「キャリアパスに影響はないのか」と不安を感じました。
両親に「医師になれるのならどっちでもいいじゃないか」と言われて肩の荷が下り、幸いこの制度を利用して近畿大学医学部に内部進学することができたというわけです。

医学部実習で感じた腫瘍内科の「熱」

実際に入学してみると、医師の家庭や裕福な家庭の子弟が多いなとは思いましたけど、それで扱いが変わるというわけではもちろんないですし、魅力ある同級生とともに臨床・研究両面で優れた業績をおもちの一流の先生方にご教示いただいた、幸せな学生時代だったと思っています。
当時は特にがんに興味があるというわけでもなかったのですが、実習でいろいろな診療科をまわったときに腫瘍内科の先生方にご指導いただく機会があり、いわくいいがたい熱のようなものを感じたのを覚えています。

近畿大学腫瘍内科が大学病院で初めて開設された医局であることは聞いていましたが、実際に先生方にご指導いただいて、一学生として僭越ながら「臓器横断的ながんの診療や研究に熱心に取り組んでいる、活気ある集団なんだな」と感じました。

初期研修では内科系の診療科を中心にローテートするつもりでいましたが、学生時代のこうした経験から「将来、何科に進むにせよ腫瘍内科にはまわっておきたい」と考え、4月に初期研修を始め、6月には腫瘍内科でご指導を受けました。そのとき、印象的だったのは初めて受け持った患者さんのお看取りをさせていただいたことです。

大学病院で亡くなられる患者さんは意外と少なく、他科では研修医がお看取りを経験させていただく機会はあまりないと思います。初期研修のはじめにお看取りを経験することになって深く悩みましたが、指導医の先生から教わったことは「お看取りは患者さんとご家族が最期に接する場面だから、丁寧にしっかりと所作をしなくてはいけない。いくら丁寧にしてもしすぎることはない」ということです。

そのことを肝に銘じ、「丁寧に丁寧に」と自分に言い聞かせながら患者さんの呼吸の音、心臓の音を聴き、瞳孔を診て、ご家族にご臨終を告げたのですが、この経験が初期研修でもっとも印象深く、これからも折々に思い出すことになると思います。

専攻医の愁眉を開いた患者さんの声

3年目からの後期研修では腫瘍内科に入局して専攻医となり、4年目からは近畿大学奈良病院で主治医として外来診療を担当させていただいています。
医局の雰囲気は学生のときに感じた通り、先生方がパイオニアとしての矜持をもっていらして、けっして惰性に陥ることなく、腫瘍内科医として自分に何ができるのかを常に考えながら真摯に取り組んでいらっしゃる姿に感銘を受けました。

近畿大学腫瘍内科のコンセプトの1つとして、あらゆるがん種を垣根なくすべて診るというマインドがあり、研修医、専攻医としてはそこが一番の魅力だと思っています。私自身、どんながんでも診させていただこうという気概で臨んではみたものの、いざ主治医として実際に外来診療を始めてみるとものすごく悩むんですよね。

幾度も壁にぶつかり、そのつど上級医の先生に相談したり自分でいろいろ調べたりして解決策を探すのですが、「これで本当にいいのだろうか」「ぼくなんかが主治医を勤めるより経験豊富な先生に診てもらったほうがいいんじゃないか」と思うことがしばしばです。

腫瘍内科の指導体制は手厚いサポートが受けられることが特長ですし、診療体制も複数の医師が治療方針を共有し、主治医1人が重い責任を背負いこまなくてもいいように配慮されています。
こうしたことは修行中の身としてはたいへん心強く、困ったことがあると、こういうことはあの先生が詳しいから尋ねてみよう、カンファレンスで先生方のお知恵をお借りしよう、場合によってはキャンサーボートに諮ってみようといったことで解決策を見つけていく道筋を少しずつ学んでいきました。

もう1つ心がけていることは、私のような若くて経験の浅い未熟な医者でも、長時間お待ちになった上でさらに何時間もかけて外来化学療法を受けられる患者さんとご家族のお気持ちに寄り添い、丁寧な診療や説明に努めることで信頼関係を築くことができないかということです。
幸い、幾人かと患者さんやご家族から「先生に診ていただいてよかった」というお言葉をいただき、とてもよい経験を積ませていただいていることに感謝しています。

近畿大学腫瘍内科でこそ拓けた可能性

研修5年目を迎えた今はまだ、将来どのような道に進むかは決めておらず、さまざまながん種の患者さんを幅広く経験したいと思っています。
これまで大腸がんや膵臓がんなど消化器系のがんを診ることが比較的多く、この領域に興味をもってはいるのですが、やはり消化器系のがんを専門とするというよりは臓器横断的な診療を行う腫瘍内科医の視点から診てみたいと考えています。

近畿大学腫瘍内科は、キャンサーボードで各診療科の先生方と討議しながら治療方針をまとめていく立場にありますので、そういったところを経験できるのも利点ではないかと考えています。
治験の件数が多いのも近畿大学腫瘍内科ならではの特徴です。現在の標準治療もこれまでの治験の積み重ねですので、将来の患者さんのためにエビデンスをつくって未来を切り開いていくような研究にチャレンジできたらと夢見てもいます。

もう1つは、近畿大学腫瘍内科で臨床・研究の両面でしっかり経験を積み、その経験を地元である和歌山県に持ち帰って広げていくことができないかと考えたりもしています。

こうして私自身の将来を展望してみると、近畿大学腫瘍内科に入局できて本当によかったと思います。逆にいうと、近畿大学腫瘍内科に入っていなければ、ここまで世界が広がることはなかったでしょう。

研修先を決めかねている若い先生方には、ぜひ当科に見学にいらしていただき、身をもってその魅力を感じ摂っていただけたら嬉しく思います。