小児白内障( しょうにはくないしょう )

 白内障とは

水晶体が混濁した状態を指します。症状として霧視( むし ) (霧がかかったように見える、暗い)、羞明( しゅうめい ) (特に明るいところでまぶしい)を自覚し、混濁( こんだく ) が進行すれば視力低下します。高齢者に多い疾患ですが、小児にみられることもあります。(図1)

 図1 生後2か月児にみられた先天白内障

 小児白内障

生まれつき水晶体が混濁した状態(先天白内障( せんてんはくないしょう ) )と,生下時には正常でも成長と共に徐々に水晶体混濁が進行するもの(発達白内障( はったつはくないしょう ) )があります。いずれの場合も、混濁の程度が強くなれば視力発達の妨げとなりますので、手術が必要となります。肉眼で見て、瞳孔( どうこう ) が明らかに白いと思われる場合(白色瞳孔( はくしょくどうこう ) :図1)にはすぐに近医を受診してください。白内障の他にも網膜芽細胞腫( もうまくがさいぼうしゅ ) 、コーツ病といった早急に治療が必要な疾患である可能性もあります。また、眼振( がんしん ) (眼球が左右に振れる)、斜視(片方の眼が正面を向いていない)がみられるようなら、すぐに近医を受診してください。

 弱視

視機能は生後すぐ~6、7歳頃にかけて発達しますが、この時期に適切な視覚刺激が無い状態が続くと視覚遮断弱視( しかくしゃだんじゃくし ) となります。白内障手術を行って見える条件が整っても手術前に弱視になっていれば、術後視力が正常まで戻る可能性は低くなります。特に片眼だけの白内障の場合には,良好な術後視力が得られにくい傾向があります。

 治療

白内障の治療は現在のところ手術しかありません. 手術では,水晶体の前嚢( ぜんのう ) (前面)に丸い穴をあけ、混濁した水晶体の中身を吸引します。その後、概ね1歳半以上の子供さんでは多くの場合、眼内レンズを挿入します。1歳半に満たない子供さんでは水晶体の吸引のみを行います。

 術後の視力矯正

水晶体を除去すると通常は強い遠視( えんし ) (近くにも遠くにもピントが合っていない状態)になり、コンタクトレンズ、眼鏡、眼内レンズのいずれを使用しないと網膜にピントが合いません。しかし生後すぐから1歳半位までの手術では,眼内レンズは挿入しないほうが良いと考えます。その理由は、この時期は眼球の成長が著しいので、もし眼内レンズを挿入したとしても、成長とともにレンズのピントがすぐに合わなくなるためです。ですから、生後すぐから1歳半までに白内障手術を受けられる子供さんは、術後にコンタクトレンズ(片眼あるいは両眼の手術の場合)か眼鏡(両眼の手術の場合)の装用が必要です。 1歳半を超えて白内障手術を受ける場合には,手術中に眼内レンズを挿入することをお勧めします(図2)。その理由は,この時期に達するとコンタクトレンズ装用が困難になってくることと、眼球の成長がゆるやかになり、手術後の成長に伴う「ピントのずれ」が少なくすむからです。 ただ、いずれの方法をとっても水晶体の持つ調節力(ピント合わせの力)はなくなり、いわゆる「老眼」の状態となりますので、術後に眼鏡は必ず必要です。 また、特に片眼白内障の場合には術後に弱視に対する視能訓練( しのうくんれん ) が必要です。当科では小児白内障手術250例以上の日本でも有数の執刀実績を持つ医師が手術を行っています。また、術後の視力矯正、視能訓練は専門的な知識を持った小児眼科医と視能訓練士が共同で行うものです。当科には3名の小児眼科医と17名の視能訓練士(うち1名は日本視能訓練士協会副会長)が在籍して、術後患者さんの視能訓練にあたっています。治療時期、治療方法、特に眼内レンズの適応に関しては個々の患者さんの状態によって大きく異なってきます。安心して治療をお任せください。