ぶどう膜炎( まくえん )

 はじめに

ぶどう膜とは、虹彩( こうさい ) 毛様体( もうようたい ) 脈絡膜( みゃくらくまく ) という血管と色素に富む組織の総称で、炎症がおこりやすいところです。ぶどう膜に炎症がおこっている状態を「ぶどう膜炎」といいます。自覚症状は、炎症がどの部分におこっているかにより様々ですが、多いものとしては、眼がかすむ、黒いすすや虫や汚れのようなものが見える(飛蚊症( ひぶんしょう ) )、結膜の充血、眼が痛い、ものが歪んで見えたり小さく見えたりする、などがあります。また、小児のぶどう膜炎などでは無症状の場合もあります。

 ぶどう膜炎の分類

ぶどう膜の一部あるいは全部に炎症が起こる病気を総称して「ぶどう膜炎」といいます。虹彩( こうさい ) 毛様体( もうようたい ) だけに炎症が限局している場合を前部ぶどう膜炎あるいは虹彩毛様体炎( こうさいもうようたいえん ) と呼び、脈絡膜( みゃくらくまく ) だけに炎症が起こっている場合を後部ぶどう膜炎、両方共に炎症が起こっている場合を( はん ) ぶどう膜炎と呼びます。

 金芳堂「眼科 インフォームド・コンセント」より転載

 ぶどう膜炎の原因

ぶどう膜炎の原因には30を超える疾患が含まれており、ぶどう膜炎以上の診断がつかないもの(原因不明のもの)も1/3程度含まれます。原因としては、感染によるものと免疫システムの異常によるものの2つに大きく分けられます。感染によるぶどう膜炎には、細菌、真菌、結核、各種ウイルス、寄生虫によるものがあります。免疫異常によるぶどう膜炎には、原田病、サルコイドーシス、ベーチェット病が多く、そのほか、糖尿病、腎疾患、関節リウマチなどの全身疾患の一症状として起こる場合や薬剤によるぶどう膜炎もあります。

 治療

ぶどう膜炎の治療の方向性を決定するためには、まず原因を検索することがとても重要です。そのうえで、感染によるぶどう膜炎の場合には、原因となる微生物に対する治療、感染により二次的におこる炎症に対する治療を行います。免疫異常によるぶどう膜炎の場合には免疫を抑える治療(ステロイドを主体とした治療)を行います。眼のどの部分に炎症があるのか、あるいは眼を含めて全身に炎症があるのか、により治療は変わります。全身疾患の一症状としてぶどう膜炎がおこっている場合には、膠原病( こうげんびょう ) 内科や小児科などと連携して治療にあたることになります。眼だけの炎症の場合には、画像検査により炎症のおこっている範囲を確認して、治療方針を決めます。

① 炎症が前眼部のみの場合(前部ぶどう膜炎)
点眼治療が中心となります。ステロイドの点眼や非ステロイド系の抗炎症薬の点眼、場合によっては抗生剤の点眼を組み合わせて治療をしていきます。炎症がかなり強い場合には、ステロイドの塗り薬(眼軟膏)を使ったり、結膜(白目の部分)にステロイドの注射を打ったりする場合もあります(結膜下注射)。
② 炎症が脈絡膜に及んでいる場合(後部ぶどう膜炎・( はん ) ぶどう膜炎)
炎症が眼の奥まで及んでいる場合には点眼だけでは効果が不十分で、内服薬や眼の奥(テノン( のう ) )への注射をする必要があります。使用する内服薬は病気の種類や状態によって異なりますが、多くはステロイドや非ステロイド系の抗炎症薬が中心となります。

 ステロイド治療について

ステロイドは副作用が多く怖い薬である印象を持っておられる方が多いと思います。しかし抗炎症作用は強く、ぶどう膜炎の治療においてステロイドは基本となる薬です。特に炎症が強い場合にはステロイドの力を借りて速やかに炎症を鎮めることが視力予後にとって重要です。ステロイドの副作用管理のために、予防的な内服や定期的な採血を行いながら治療を続けていきます。以前はステロイドしか使える薬がありませんでしたが、近年、ステロイドに替わる治療として免疫抑制剤( めんえきよくせいざい ) や生物学的製剤による治療が保険適応となっています。ステロイドの副作用が強い場合やステロイド治療のみでは炎症がおさまらない難症例にはこれらの治療を併用した治療を行っています。