未熟児網膜症
未熟児網膜症 とは
- 「未熟児網膜症」とは未熟児の目に発症し,小児の失明原因の第一位を占める病気です.
- 未熟児網膜症は,修正30~38週の間に最も進行し,43~45週を超えると自然に停止します.
- 早生まれのベビー,出生児の体重が小さいベビー,双子や三つ子のベビー,そして全身状態の悪いベビーほど未熟児網膜症が発症するリスクが高くなります.
- 未熟児の90%は未熟児網膜症を発症しても治療を要さず自然治癒します.しかし約10%はレーザー治療などの処置を必要とし,約1%は失明します.
- 28週未満で生まれたベビーでは約80%に未熟児網膜症を発症し,約40%のベビーに処置や手術を必要とします.逆に32週を超えて生まれたベビーでは約10%に発症しますが,処置を要することはほとんどなく,自然治癒します.ただし児の状態によって例外はあります.
- 未熟児網膜症に対する標準的治療は網膜に対する治療は,薬剤の眼内注射(抗VEGF治療)またはレーザー治療です.
- 抗VEGF治療やレーザー治療だけで病状の進行を阻止できない場合,手術が行われます.しかし手術を行っても強い視力障害を残すベビーが多いのが現状です.
- 未熟児網膜症が安定しても後に白内障 、緑内障 や網膜剥離 を発症することがあります.
- 未熟児網膜症がおさまっても屈折異常(近視,遠視,乱視)や緑内障、網膜剥離、弱視といった問題に対する長期間のケアが必要です.
未熟児と眼球
「網膜」とは目の内側にある薄い膜組織で,光を感じてこれを電気信号に変える大切な組織です.この網膜に分布している血管は,胎生16週ころに発生し,36~42週に完成します.(図)

未熟児網膜症とその治療
未熟児網膜症とは,網膜の血管がまだ十分に伸びきらないうちに生まれてくると,網膜血管が異常な発育をして発症します. 未熟児網膜は,いくつかのステージ(病期)に分類されています.(図)

この図は,小児内科47巻3号394ページの図の一部を許可を得て改変,転載した
この中で,stage 1やstage 2では治療は必要なく,自然に治癒することが多いのですが,stage 3に入ると,抗VEGF治療(目への注射)やレーザー治療が必要です.そして,stage 4以降に進行した場合には,手術が必要になります.未熟児網膜症の進行スピードはベビーによりさまざまですが,ある時点から急に悪化することもあります.
未熟児網膜症の視力予後
未熟児網膜症の視力予後はさまざまです.stage 3までに治療が奏功して未熟児網膜症が沈静化すると,正常の視力が得られることがあります.しかしstage 3でも網膜の状態によっては,矯正視力は0.1かそれ以下になります. 手術を行うようなstage 4以降では視力はいっそう悪くなります.手術が必要になる未熟児網膜症は,stage 4では1~3割程度、stage 5では半数程度が失明します.しかし手術を行わなかった場合は,ほぼ全例失明します. しかし目の状態以外に,治療を要するような未熟児網膜症を持ったベビーは全身的な発育遅延や障害を持つことが多く,視力障害は目や網膜の障害だけが原因でないことが多いです.
まとめ
未熟児網膜症の多くは軽症で治療をしなくても自然に治癒しますが,いったん重症化すると視覚障害者になることが多い疾患です.我が国の未熟児網膜症の治療は,世界でも最先端の技術を誇ります.しかし新生児管理の進歩により今まで生存ができなかった小さなベビーが生き残るようになり,その結果,重症未熟児網膜症は増加しています.主治医から現状をよく聞き理解をして,適切な治療方法を選択するようにしてください.当科における未熟児網膜症に対する硝子体手術件数は多く、日本で3本の指に入ると思われます。また、抗VEGF治療に関しても10年以上の実績があります。安心して受診してください。
本稿は,金芳堂発行「眼科インフォームド・コンセント ダウンロードして渡せる説明シート(下村嘉一,國吉一樹編)」から出版社と著者の許可を得て転載し,変更したものです