責任者・診療部長 戸川 大輔
さまざまな脊椎疾患を、ナビゲーションや神経モニタリングを用いて安全かつ有効な手術を行います。腰椎変性疾患や、骨粗鬆症や溶骨性腫瘍(転移性脊椎腫瘍、骨髄腫など)による椎体骨折の低侵襲治療(BKP:バルーンカイフォプラスティー)に力を入れています。また、椎間板ヘルニアに対する椎間板内酵素注入療法(ヘルニコア)治療も行っています。
変形性関節症を始めとする加齢性の関節障害から膝関節の怪我、スポーツに伴う関節障害まで幅広い関節疾患に対処しています。人工膝関節については自己の膝関節の正常構造を温存する単顆人工膝関節(UKA)を積極的に取り入れているほか、手術支援ロボットを活用して患者さま個別の最適な設置を実践しています。
2022年5月より人工膝関節手術に手術支援ロボットを導入しました。外科医の手と共同して、患者さまの若かった頃の関節の形に合わせた究極の設置を実現することが可能です。
自己の血液から作成したPRPを関節内へ注射するPRP療法を行っています。PRP療法は再生医療としての認可を受けており、膝関節症に対する手術をしない治療法の1つです。当院ではPRPの中でも濃度を高め効果を増幅させたAPSも導入しております。
骨粗鬆症は、脊椎圧迫骨折や大腿骨骨折を引き起こし日常生活自立度や寝たきりの原因となることがあるため、その予防に、腰椎・大腿骨の骨密度はもとより、HSA(大腿部強度評価)、TBS(腰椎海綿骨構造評価)・CTでの骨質評価および血液検査(骨代謝マーカー、カルシウム、ビタミンなど)を用いて、個々に適した薬物療法の選択(従来の骨吸収抑制剤から最新の骨形成促進剤スクレロスチン・アバロパラチドまで)や食事や運動療法など生活指導も行います。
頭蓋骨以下の脊柱(頸椎・胸椎・腰椎・仙椎)は、体を力学的に支える支柱としての機能、身体をなめらかに動かすための機能に加え、脊髄や末梢神経の入れ物としての機能をつかさどる重要な部位です。この部位の障害は疼痛や運動障害、感覚障害をきたし、日常生活動作に支障を生じます。脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアは代表的な疾患ですが、それ以外にも脊柱変形(側弯症・後弯症)、外傷(脊椎骨折、骨粗鬆症性椎体骨折)、感染(化膿性脊椎炎、脊椎カリエス)、腫瘍(転移性脊椎腫瘍、神経鞘腫、髄膜腫など)、靭帯骨化(後縦靭帯骨化、黄色靭帯骨化)など多岐にわたる疾患の臨床経験を積んでまいりました。2024年度からは脊椎センターとして、より一層の専門的治療に磨きをかけ、患者様方の運動器障害からの回復を手助けしていきたいと考えております。
人工関節は進行した関節症に対する最も効果的な手術治療法であり、様々な病院で毎年多くの手術が行われています。しかし痛みが残存し、手術の結果に不満足な患者様が一部おられることは事実であり、この10年、医学会でも頻繁に論議が繰り返されてきました。不満足の理由は多岐にわたりますが、最大の原因は「思った通り」でない事であり、手術後の強い痛みや感染・脱臼といった合併症も、患者様の満足度を確実に低下させる原因です。そこで近年の人工関節に求められている事は、患者様それぞれに「最も馴染みの良い設置」を目指す事、そして良質な周術期管理「トータルマネージメント」能力に集約できると考えられます。当院の人工関節手術は近畿大学医学部整形外科学教室で長年培われてきた研究成果に裏付けられたものであり、近年では手術支援ロボットを導入し、患者様個別の設置を目指す、質の高い手術を実践しています。さらに大学附属病院である事から、手術困難と判断された内科的合併症のある患者様にも他診療科との連携により可能な限り対応しています。これらの特徴を活かし、2024年4月より「近畿大学奈良病院人工関節センター」を標榜させていただく運びとなりました。一人でも多くの患者様に、より専門性の高い診療をご提供できますよう、尚一層努力してまいります。
(日本整形外科学会症例レジストリー(JOANR)構築に関する研究について)
近畿大学奈良病院整形外科では、当科で手術を受けた患者さまの診療情報を用いた研究を2020年4月1日より実施しています。この研究を実施することによる患者さまへの新たな負担は一切ありません。また,患者さまのプライバシーの保護については法令等を遵守して研究を行います。患者さまの資料・情報について、本研究への利用を望まれない場合には、担当医師に御連絡ください。
がんにおける脊椎転移は病的骨折による痛みや、脊髄圧迫による四肢の運動麻痺など適切な治療が行われないと生活の質が著しく損なわれる疾患です。近年のがん治療は新しい抗がん剤や分子標的薬、抗ホルモン剤の登場などで著しい進歩を遂げており、生命予後が伸びています。また転移性脊椎腫瘍に対する治療も放射線治療の進歩や手術療法の低侵襲化、新しい骨に対する薬の登場で大きく変化しています。しかしながら、がんと転移性脊椎腫瘍を取り巻く環境が日々変わってきていることに加え、がん種の違いや個々の症例の背景にばらつきがあり、脊椎転移に対する治療法に関して、どのような場合にどのような治療法を選択すべきか、またどの程度の治療効果が見込まれるかについて、情報が十分に確立されていないのが現状です。本研究で多施設のデータを蓄積し、詳細に解説することにより、各治療法の治療成績に関連する因子が明らかとなれば治療法選択の基準を構築することができ、脊椎転移を有するがん患者の生活の質の向上に大きく貢献することができると考えます。
本研究は大阪公立大学を代表として、京都大学、神戸大学、大阪医科薬科大学、関西医科大学、兵庫医科大学、近畿大学奈良病院、大阪警察病院、淀川キリスト教病院、府中病院との共同研究であり、研究によって得られた情報は加工の上、共同利用させていただきます。
連絡先:近畿大学奈良病院 整形外科 戸川大輔(住所:奈良県生駒市乙田町1248-1 電話番号:0743―77―0880)
〇…初診・再診とも診療 □…初診のみ診察 △…再診(予約)のみ診察 ― …休診
月 | 火 | 水 | 木 | 金 |
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〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
担当医師名 | 専門分野 | 専門医資格等 |
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![]() 戸川 大輔 |
脊椎脊髄外科 | 日本専門医機構認定整形外科専門医・脊椎脊髄外科専門医、日本整形外科学会認定専門医・脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科専門医・指導医・脊髄モニタリング認定医 |
![]() 森 成志 |
下肢関節外科 | 日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定専門医・スポーツ医、日本人工関節学会認定医、日本リウマチ学会専門医、日本関節病学会認定医 |
![]() 山﨑 顕二 |
脊椎脊髄外科 骨粗鬆症 |
日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定専門医・脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科専門医・指導医、日本リウマチ学会専門医・指導医、日本骨粗鬆症学会認定医 |
![]() 正覺 展央 |
脊椎脊髄外科 整形外科一般 |
日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定専門医・脊椎脊髄病医、リハビリテーション医、スポーツ医、温泉療法医 |
![]() 伊藤 智彦 |
骨軟部腫瘍、関節外科、整形外科一般 | 日本専門医機構認定整形外科専門医 |
![]() 宮里 雅晃 |
整形外科一般 | ― |
![]() 神谷 正人 |
関節リウマチ、関節疾患 | 日本専門医機構認定整形外科専門医、日本リウマチ学会リウマチ専門医・指導医 |
科目 | 内容 | 件数 | ||||
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2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | ||
手術実績 | 人工関節股関節 | 20件 | 25件 | 21件 | 25件 | 34件 |
人工関節膝関節 (UKA) |
84件 (13件) |
57件 (15件) |
53件 (14件) |
71件 (22件) |
63件 (20件) |
|
骨関節外傷関連 (椎体形成術以外) |
201件 | 169件 | 163件 | 194件 | 144件 | |
脊椎関連 (椎体形成術) |
130件 (16件) |
148件 (31件) |
177件 (40件) |
177件 (45件) |
160件 (43件) |
|
科目 | 内容 | 件数 | ||||
2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | ||
腫瘍関連(脊椎・脊髄腫瘍) | 25件 (12件) |
34件 (12件) |
23件 (7件) |
25件 (16件) |
14件 (5件) |
|
関節リウマチ関連 (人工指関節) (人工肘関節) |
15件 (1件) (0件) |
13件 (2件) (0件) |
20件 (0件) (2件) |
21件 (1件) (0件) |
9件 (0件) (0件) |
|
その他(腱鞘切開、 手根管開放、 感染症、抜釘術など) |
105件 | 126件 | 132件 | 85件 | 65件 | |
合計 | 569件 | 555件 | 589件 | 575件 | 477件 |
高齢になると骨粗鬆症化が進みます。骨粗鬆症になると、転倒などをしなくても骨折をすることがあります。これを脆弱性骨折といいます。骨粗鬆症による脆弱性骨折の中で最も多いのはせぼねの骨折、通称圧迫骨折(椎体骨折)です。ほかの骨折はギプスによる固定などで治しますが、身体にギプスはかなり大変です。硬めのコルセットをするのが基本的な治療になりますが、それもまた大変です。BKPは5㎜の傷2か所でできる非常に低侵襲な手術です。全身麻酔というハードルはありますが、手術はおよそ30~40分、手術が終われば骨折はすぐに安定化し、動いても痛みがなくなります。是非ご相談ください。
ロコモティブシンドロームとは、骨や神経、筋肉などの運動器が障害され、移動能力の低下をきたした状態のことをいいます。2人に1人ががんに罹患する時代ですが、近年、がんの治療法は著しく改良され、生存率が上昇しています。しかし約10%のがん患者さまには骨転移が発生します。骨転移があると、病的な骨折を起こしたり、せぼねの骨転移では神経に障害が出て両上肢が動かしにくくなったり、立ったり歩けなくなったりすることもあります。寝たきりになると、最良のがん治療を受けられなります。当科は患者さまの骨転移の状況を把握し、がんによるロコモティブシンドローム(がんロコモ)にならないように共に考えます。是非ご相談ください。
せぼね(脊柱)は絶妙なバランスでできており、横から見ると美しいS字状のカーブを描きます。しかも身体を滑らかに動かし、大事な神経を格納するという素晴らしい臓器です。せぼねの骨折、椎間板の変性、神経の病気など原因は様々ですが、これらの病態を契機に脊柱が変形することがあります.脊柱が変形すると容姿が気になるばかりでなく、長時間立位、座位を保持すると疼痛が出たり、おなかが押されて食後に吐き気がでたり、神経が障害されて下肢痛が出たりします.このような状態になるとなかなか手術以外の方法では症状が改善できず、症状はさらに悪化してしまいます.手術はタイミングが重要です.是非ご相談ください。
全ての患者さまに満足していただける痛みの無い良好な膝関節の再建を目指しています
①単顆人工膝関節(UKA)
患者さまの正常な部分を残す手術です。術後の痛みが少なく、正常膝に限りなく近い機能回復が可能です。
②人工膝関節全置換術(TKA)
変形が高度に進行した患者さまに対する根治的な手術です。膝関節のすべての部分を人工関節に置き換えますが、十字靭帯機能を備えた最新機種の使用や、ロボット支援手術との組み合わせによって、従来の人工膝関節より自然な膝関節機能の獲得が可能です。
これまでの人工膝関節置換術では、どの患者様に対しても同一の「真っ直ぐな脚」が目標とされてきました。しかし人の生まれつきの関節の形態には様々な個別性があり、これを単一の目標に統一することで、人工膝関節の自然な動きが損なわれているのではないかと考えられるようになってきました。そこで、患者さま生来の関節形状にあった個別の設置目標を設定し、高い精度で実現することを目標に開発されたシステムが人工関節手術支援ロボットです。
手術支援ロボット(CORI®サージカルシステム(スミスアンドネフュー社製))
当院で採用しているCORI®システムは、手術中に患者さまの関節の形状を直に読み込み、最良の位置に人工関節部品の表面形状を合せ込む設置計画を立てます。外科医はCORI®システムに接続されたドリルで骨を掘削しますが、設置計画の通りに削れる様にドリル刃先の動作がロボット制御されるシステムです。外科医の手だけでは成し得なかった、すべての患者さまに馴染みの良い人工膝関節を目指すことが可能になりました。
整形外科では、筋骨格系(筋肉・骨・靱帯・関節など)の診断と治療を担当します。
当院スタッフの専門分野は、脊椎・脊髄、下肢関節(股関節・膝関節)、関節リウマチ、骨粗鬆症、外傷などで、整形外科に受診する多くの患者さまの症状を丁寧に診察します。
つらい痛みや機能障害にやさしく対応しながら、整形外科専門分野の知識を生かし的確に診断します。治療方針は患者さまとご家族と十二分に相談し選択します。
スタッフは日々研鑽し最新かつ最善の治療を施せるように努力しています。
戸川 大輔