新型コロナウイルス感染症が重症化した場合、通常の医療機器のみならず、人工呼吸器やECMO(extracorporeal membrane oxygenation)、および血液浄化装置など多くの生命維持管理装置を使用します。われわれ臨床工学技士は医療機器を扱うスペシャリストとして、新型コロナウイルス感染症をはじめ様々な疾患に対して、24時間体制で対応しています。
新型コロナウイルス感染症の蔓延により注目されつつある臨床工学技士ですが、医療機器や医療用具が高度・複雑化が進む中、医療従事者が安全に使用でき、医療機器の最適な条件が提案できるように医療チームの一員として携わっています。
【近畿大学病院 YouTube】COVID-19への挑戦 最前線からのメッセージ
臨床工学部では、臨床工学技士38名が所属しています。
技術科長:1名
技術科長代理:2名
技術主任:5名
臨床工学技士スタッフ:30名
派遣スタッフ:2名(機器管理業務のみ)
(2022年4月現在)
臨床工学部では、10業務に分かれており、基本的にはローテーションで業務を担当しています。また、災害対策チームとして病院内の災害対策、およびDMAT隊員として被災地で活動しています。
臨床工学技士ってなに?自己紹介の際によく聞かれるフレーズです。
近畿大学病院に臨床工学部ができたのは2007年と、他の医療技術職と比べて歴史は浅く、社会的知名度もまだまだです。
しかし、私たち臨床工学技士は現在の医療では絶対不可欠な医療機器を安全に患者さまに使用していただくために日夜、点検、管理をしており、また日進月歩で進歩する医療や医療機器の情報収集や研修会を開催し、チーム医療に貢献しています。
臨床業務においても医師や他のメディカルスタッフと連携し、よりよい医療の提供のため24時間体制で臨んでいる、医工学のスペシャリストです。
今後も私たちは、患者さまに安全な医療を提供できるようにスペシャリストとして医療機器、臨床業務の提供に全力をつくしていきたいと考えております。
院内で使用される生命維持管理装置をはじめとした主要な医療機器を中央管理し、各部署への貸出・返却をおこない、医療機器の有効活用をしています。
機器管理室では返却された医療機器の使用後の点検や定期点検等を行っています。また、院内で発生した機器の修理、トラブルも受付し対応しています。臨床工学技士が保守点検を行うことで、安全に機器が使用されるよう努めています。
新しく医療機器を購入する際に、機器の機能等を把握し、有用性のある機器を選定しています。また、中長期の購入計画を立て、事務部門と連携し、老朽化等による医療事故防止にも努めています。機器の購入・廃棄に関して計画的に行うことによるコスト削減に貢献できるように取り組んでいます。
中央滅菌材料部では、日々院内の手術や検査、処置などで使用された医療器材を適切に管理し、安全にかつ良質な医療を提供するために適切な洗浄・滅菌が行われており、常に清潔な医療器材を提供できる体制を整え、院内感染防止の役割を担っています。
臨床工学技士は、中央滅菌材料部で使用後器材の点検の実施、洗浄機・滅菌機の保守管理、またその他にも鋼製器具といった器材の修理・在庫管理といった面で関わっており、より安全で質の高い医療の提供に貢献しています。
当院医療従事者を対象とした医療機器の操作・使用上の危険性などに関する説明会(以下、医療機器安全管理研修)の実施・管理を行っております。
近年、医療機器安全管理研修の重要性が高まっています。理由は、病院には数100種類もの医療機器が存在することに加え、毎年のように新しい機種が導入され、かつ全国でも医療機器に関連したトラブルが一定数報告されていることなどが挙げられます。
医療機器安全管理研修に、医療機器の専門家である臨床工学技士が介在することで、現場のニーズや対象患者さまの病状を加味した医療機器安全管理研修を実施することが可能となります。当院では年間100件以上の医療機器安全管理研修を実施しており、特に重要な医療機器に対しては、毎年継続的に研修を開催しております。
全国で医療過誤によって患者さまの不利益が発生する事例が報告されています。そのような事例を回避することを目的として、当院ではヒヤリ・ハット事例(トラブルを事前に回避できた事例)を積極的に院内共有し、トラブル回避につながったポイントを職員で確認することで、より安全な医療現場の構築に努めております。
当院の年間ヒヤリ・ハット事例約10,000件のうち、約500件は医療機器に関連した事例となっております。その情報活用は、病院の質をより向上させるための重要なポイントとなります。院内全体の医療安全統括部門である安全管理部に臨床工学技士を1名兼務させ、発生事例の詳細情報確認、事例の分析、当該機器販売メーカーとの協議、予防策の立案・実施を行なっております。
心臓弁膜症、大動脈疾患などにおいて安全に手術を行うため心臓を人為的に停止させる必要があり、その際に心臓と肺の代替えとして人工心肺装置を用い、この機能を代行しています。
臨床工学技士はこの人工心肺装置並びに周辺機器の準備・操作を行います。手術前には医師、看護師等、多職種と合同でカンファレンスを行い、手術に向けて患者さまの情報の共有、手術方法などについて検討を行っています。
当院では複数名の体外技術認定士が在籍しており、安全に手術が行えるように患者さまの安定した循環維持に努めています。
当院は植え込み型補助人工心臓の実施施設として南大阪唯一の病院となっています。補助人工心臓装置とは心臓のポンプ機能を代行する装置です。心臓機能低下がある患者さまの心臓移植までの待機期間を支援する目的で利用されています。
臨床工学技士はこれらの補助人工心臓の装着術のため人工心肺装置の準備・操作、補助人工心臓の準備・操作を行います。手術後も補助人工心臓装置の点検・管理、また退院に向けて患者さまに教育を他職種と共に行っていきます。退院後は外来での点検・管理を行います。
患者さまが安心して生活を送れるよう、緊急時の対応など24時間フォローできる体制としています。
心臓カテーテルアブレーション(経皮的心筋焼灼術)は、主に頻脈に対する治療で傷口が小さく体への負担が小さい治療法です。太もものつけ根や首、肩の血管から心臓にカテーテルを挿入し、解析装置を使用し不整脈の原因となる回路や異常部位を特定し、その特定された領域をアブレーション(焼灼)する治療です。
不整脈の解析に使用する解析装置には、心内心電図解析装置や3Dマッピング装置があります。臨床工学技士はこの機器の準備、操作を担当し医師・看護師・診療放射線技師と共に治療に携わっています。
CIEDs(心臓植込み型電気的デバイス)は、脈が遅くなる徐脈に対し使用するペースメーカ、心室性の不整脈に対し使用するICD、心不全の改善に使用するCRT等があります。CIEDsは手術室で血管から心臓にリード線を挿入し、電池と呼ばれる本体にリードを接続します。
臨床工学部ではCISDsの植込み手術の立ち合い、外来時チェック、MRI撮像の立ち合い業務などを実施しています。また、CIEDs植込み患者さまのご自宅に専用の機器を設置し、デバイス情報や不整脈、機器のトラブルなどを早期に発見できる遠隔モニタリング業務を実施しています。
虚血カテーテル業務では症例数により、1~2名配置され業務に従事しています。
業務内容としては、冠動脈造影時のポリグラフ(心電図・心内圧の測定)等の検査装置や、ロータブレーター、画像診断装置(IVUS:血管内超音波・OCT:光干渉断層撮影装置)等の治療に必要な機器の操作・管理を主とし、緊急症例や重症症例に関してはIABP、PCPSやIMPELLA等の対応も行っています。また、SHD(構造的心疾患)業務として、TAVI(大動脈弁狭窄症のカテーテル治療)、MitraClip(僧房弁閉鎖不全症のカテーテル治療)、BAV(経皮的大動脈弁形成術)、PTMC(経皮的僧房弁交連裂開術)、ASD(心房中隔欠損のカテーテル治療)等にも携わっており、清潔操作(デバイス準備)や大動脈弁留置時のラピッドペーシング操作、また緊急時対応(PCPS、IABP、IMPELLA導入)を行っています。
院内すべての稼働中人工呼吸器が正常に稼働していることを日々点検しております。時には、医師・看護師と相談し、患者さまの状態に合わせて人工呼吸器設定変更も提案します。当院では17種類の人工呼吸器・呼吸補助装置を使用しており、機器特性を患者さまの治療に有効活用するための運用作りも業務の一環となっております。また、特殊な呼吸療法(一酸化窒素療法、低酸素療法、横隔膜電位による呼吸管理、陽陰圧体外式人工呼吸器、パーカッションベンチレーターによる排痰療法)を行う場合は、機器に関する専門知識を活用し、操作に関するアドバイスを行うことで、患者さまの治療の一助となるべく努めております。
手術室では各診療科で日々、様々な手術が行われています。手術室での臨床工学技士の業務としては、内視鏡外科手術業務、ナビゲーション業務(整形外科)、眼科業務といった業務を各1~2名で行っています。
内視鏡外科手術は現在日本全国で受けられる標準的手術となっております。ただ、使用する機器やデバイスも多く、これらの機器の安全性および精度が確約されなければ内視鏡外科手術は成り立ちません。そのため当院でも、2007年より術中トラブルゼロを目指し機器の保守管理を開始し、機器の始業・使用中・使用後点検また定期点検を実施しています。また、その他にも機器運用として各科共通使用機器(内視鏡システム、電気メスなど)の更新の提案や運用変更、また他職種間で協力しトラブル解決に向けたの研修の実施や運用の見直しなどにも積極的に携わっています。
脊椎手術においては、さまざまな原因によって神経が圧迫され耐え難い痛みや日常生活に支障をきたすようなしびれや麻痺があり、保存的治療では改善しなかった場合に手術となります。その手術の際に除圧や固定、矯正といった手技を行いますが、このときにナビゲーション装置を用いることで高精度なナビゲーション情報に基づき高い信頼性をもって手技を行うことが可能となります。臨床工学技士としてナビゲーション装置のセッティング・操作といった面でチーム医療に貢献しています。
眼科手術業務では、白内障手術や硝子体手術、角膜移植手術などで使用する超音波手術装置や硝子体網膜手術用レーザーなどの装置のセッティング、操作を行っています。
人工透析室のベットは14床で主に検査や治療のため入院を要する患者さまに対して血液浄化療法を行います。私たち臨床工学部では、特に救急領域での血液浄化療法を担当しており、持続的血液濾過透析療法は、年間約1,500件実施しています。急性血液浄化に迅速に対応できるように、24時間臨床工学技士が安全な治療に努めています。さらに各種難治性疾患や腎移植の抗体除去に対して血漿交換療法や吸着療法、腹水濾過濃縮、エンドトキシン吸着療法等の特殊血液浄化も多数実施しています。また機器管理や透析液の水質管理も徹底し、患者さまに安心して治療を受けていただけるよう努めています。
専門知識に基づく安全な技術提供を行うため、認定資格取得、学会活動やセミナー参加、さらにメーカー主催の講習会等に積極的に参加しております。
透析医療はチーム医療であり、今後も医師、看護師およびスタッフ間の連携を図り、円滑で安全な業務を提供しています。
当院は災害拠点病院としての役割があり、臨床工学部では夜間休日を含め交替勤務体制で救命救急医療に対応しています。また、災害による活動に備えて様々な災害を想定した訓練や研修の企画を行っています。 災害拠点病院として実災害に向けた災害時医療活動(災害派遣医療チーム:DMAT)のために災害を想定した訓練と研修に積極的に参加しています。臨床工学部にはDMAT隊員が在籍し、東日本大震災をはじめ、熊本地震、大阪北部地震や九州豪雨災害などの実災害において災害時医療活動を行っています。
業務 | 内容 | 年間実施(症例)数 | 月平均件(症例)数 |
---|---|---|---|
機器管理 | 終業点検 | 64,950回 | 5,413回 |
定期点検 | 2,230回 | 186回 | |
修理 | 院内修理 | 4,965件 | 414件 |
院外修理 | 3,199件 | 267件 | |
中央滅菌材料 | 院内修理 | 1,587件 | 132件 |
院外修理 | 1,010件 | 84件 | |
人工心肺・補助人工心臓 | 定期手術 | 304例 | 25例 |
緊急手術 | 68例 | 6例 | |
VAD対応 | 866件 | 72件 | |
不整脈・PMデバイス | アブレーション | 332例 | 28例 |
PM外来チェック | 1,184例 | 99例 | |
PM入院チェック | 133例 | 11例 | |
植込み | 138例 | 12例 | |
EMI対応 | 125例 | 10例 | |
PM遠隔モニタリング | 1,450例 | 121例 | |
虚血カテーテル・補助循環 | 検査 | 247例 | 21例 |
治療 | 356例 | 30例 | |
緊急 | 239例 | 20例 | |
SHD | 155例 | 17例 | |
ECMO | 86例 | 7例 | |
呼吸・新生児 | 呼吸ラウンド | 13,149例 | 1,096例 |
手術室 | OP点検 | 13,499回 | 1,125回 |
内視鏡 | 1,843例 | 154例 | |
ダヴィンチ | 222例 | 19例 | |
ナビゲーション | 91例 | 8例 | |
眼科 | 2,765例 | 230例 | |
血液浄化 | 定期透析(透析室・病室) | 4,632回 | 386回 |
緊急透析(透析室・病室) | 208回 | 17回 | |
アフェレシス | 65例 | 6例 | |
CRRT | 124例 | 10例 |
担当者:堀 辰之 email: ce-hori@med.kindai.ac.jp