視野研究で国内の中枢的研究施設
緑内障は、視野(ものの見える範囲)に特徴的な進行性の障害を生じる病気です。約120万本ある視神経の線維が、眼球からの出口である
ただし、現在の医療ではいったん障害された神経を回復させ視野を回復させることはできないため、できるだけ早く疾患を見つけ適切な治療を開始することが大切です。
緑内障は、厚生労働省研究班の調査によると、国内における失明原因の第1位になっています。さらに、多治見市で行われた国内における大規模な緑内障の疫学調査によると、40歳以上の日本人の緑内障有病率は5%ということが分かりました。つまり40歳以上の日本人には、20人に1人の割合で緑内障にかかっているということになります。
また、この有病率は、年齢とともに増加していくことも明らかになっており、今後、高齢社会の進展とともに、ますます患者数が増えていくことが危惧されています。さらに、これだけ多くの患者さんがいるにもかかわらず、約9割の患者さんは、自分が緑内障であることに全く気づいていないことも分かってきました。
緑内障にはその原因に、幾つかの種類があります。
①
最も多い緑内障のタイプです。隅角は正常に開いているにもかかわらず、その奥にある
また近年では、眼圧が全く上昇しないのに視神経や視野に障害が生じる正常眼圧緑内障と呼ばれる病型が国内に非常に多いことが知られています。原因は不明ですが、眼内の血液循環、遺伝、免疫、酸化ストレス、近視、加齢などさまざまな要因の関与が考えられています。
②
眼球内の水(房水)の排出部位である角膜と
③続発緑内障
緑内障以外の眼や全身の別の病気が原因になったり、ステロイドホルモンなどの副作用で眼圧が上昇するために起こる緑内障です。
④発達緑内障
生まれつき隅角に異常があるタイプの緑内障です。生まれた直後から眼圧が高いと眼球が大きくなることもあり、「
緑内障の症状は、その病型によって異なります。最も頻度の高い原発開放隅角緑内障では病期が進行するまで無症状の場合がほとんどです。実際には、視野検査を行いますと視野が欠けているのですが、障害の進行が通常、非常にゆっくりで、その上、日常生活では両眼で見ているため、左右の目で視野異常をカバーしてしまい、かなり障害が進行するまで、その変化にまったく気づかないことがほとんどです。
さらに、片目を隠して視野障害のある目だけで見ても、なかなか自分の視野異常に気づかないことも知られています。これは
しかし、視野の欠損部位に入り込んだ物は、実際には見えていないため、日常生活で物にぶつかったり、運転時に飛び出しに気づかず事故を起こすこともあります。そして視野障害がさらに進行すると、自分の視野が狭いことに気づき、最終的には視力も低下してきます。 一方、原発閉塞隅角緑内障では、急激に眼圧が著しく上昇した場合(急性緑内障発作)は、眼痛、充血、目のかすみのほか、頭痛や吐き気、嘔吐を伴うことがあります。この場合は、急速に視神経が障害され視野が悪化する可能性があり、すぐに適切な治療を受けて眼圧を下げる必要があります。
緑内障では、その確定診断や、治療中の効果判定を行うために、幾つかの眼科検査を定期的に行う必要があります。
①眼圧検査
眼に器械を直接接触させて眼圧を測定するゴールドマン圧平眼圧計、空気を吹きつけて非接触に眼圧を測定する空気眼圧計などがあります。
②隅角検査
隅角の状態を確認し、緑内障の病型を診断するための検査で、専用のコンタクトレンズを眼球表面に接触させて検査を行います。
③眼底検査
眼球内の網膜(光を神経の信号に変換する組織)を直接観察し、視神経の障害程度を判定する検査です。視神経乳頭には、生理的に小さな
また最近では、当科でも導入している
④視野検査
緑内障では、それぞれの病期によって特徴的な視野障害が現れてきます。視野検査では、この視野異常を正確にとらえ、緑内障の確定診断や経過観察を行います。当科は、特に視野研究の分野で国内の中枢的研究機関として活動しており、海外における視野研究者と情報を共有しながら、常に最新の診断技術を臨床へ情報提供しています。
視野検査では片目をふさいで、視野計ドームの中心を固視した状態で、小さな光を視野のあちこちに順に提示し、見えるか見えないかでボタンを押して応答していきます。緑内障の検査の中でも時間のかかる検査ですが、確定診断、進行評価において、欠かすことのできない最も重要な検査です。
視野検査には幾つかの種類があります。最もよく行う視野検査はコンピューター制御の自動視野計によるものです(写真1)。また、検査員がゴールドマン視野計という機器を使い手動で測定する方法もあります(写真2)。この検査は、周辺部の視野を含めた全体像を把握する上で非常に重要な検査です。
検査には検査員の技量が大きく影響しますが、当科では高い測定技術を備えた視能訓練士が検査を担当しており、非常に精度の高い測定を行っています。
近年、これらの視野検査で異常が検出された段階では既に視神経の約50%が障害を受けていることが分かってきました。そこで、より早期の視野異常を検出する目的で、機能選択的視野検査と呼ばれる手法が開発されています。網膜では、視力など細かな物を見るときに働くP-細胞系、物の動きに反応するM-細胞系、青色に選択的に反応するK-細胞系など、単に光を脳に伝えるだけではなく、さまざまな機能的役割をもった神経が分化しています。特にM-細胞系、K-細胞系は数が少なく、これらを選択的に測定すると緑内障を、より早期に検出することができます。当科でも積極的に複数の機能選択的視野検査を取り入れ、緑内障の早期診断に取り組んでいます(写真3)。
緑内障の患者さんの約9割は自分が緑内障であることに気づいていません。当科では、これらの潜在的な緑内障患者さんをスクリーニングする目的でクロックチャートと呼ばれる簡易な視野検査表を開発し、新聞広告やテレビ放送で緑内障の啓発活動を積極的に進めています(図2)。
さらに当科では、アイトラッキング技術を用い明室で短時間にさらに従来の視野計より精度の高い視野測定が可能なヘッドマウント型視野計imoを開発し、積極的に臨床導入しています。(写真4)
現在の医療では、残念ながら緑内障でいったん障害された視神経を再び回復させることはできません。しかし、緑内障は眼圧を十分下げると、その進行を防止あるいは遅らせることができることが明らかとなっています。眼圧がもともと高くない正常眼圧緑内障でも、眼圧をさらに下げることで病気の進行を遅らせることができます。
そのため緑内障では、できるだけ早い段階で病気を発見し、治療を開始することがとても重要となります。緑内障の治療には、点眼などの薬物療法、レーザー治療、手術治療があります。
①薬物療法
多くの緑内障では、点眼による薬物療法が治療の基本となります。点眼薬は基本的に眼圧を下げることで緑内障の進行を抑えます。さまざまな作用機序(仕組み)を持った点眼薬が10種類以上発売されており、緑内障の種類や重症度に応じて処方されます。
また、緑内障の点眼薬はそれぞれ固有の副作用もあるため、使用に関しては、医師、薬剤師の説明をしっかり守ってください。内服薬で眼圧を下げる薬もありますが、全身の副作用が強く出ることがあり、長期間は使用できない場合もあります。
②レーザー治療
レーザー治療は主に2つの方法があります。1つは、レーザーで虹彩に小さな孔を開けて、眼内の房水の流れを変えるもので、多くの閉塞隅角緑内障や急性緑内障発作がこの方法によって治療できます。
もう1つは、線維柱帯に照射することで房水の排出を促進するためのレーザー治療です。一部の開放隅角緑内障に効果があります。レーザー治療の痛みは極軽度で外来で行うことができます。
③手術
薬物療法やレーザー治療の効果が不十分な場合に行われる治療です。大きく分けて房水が眼外に流れる別の経路を新たに作る手術と、線維柱帯を切開して房水の排出を促進する手術の2つがあります。また、房水の排出を改善するため眼内に留置するチューブ状の器具も認可されました。これらの手術方法は症例に応じて選択されます。
手術はあくまで眼圧を下げて視野障害の進行を食い止めるのが目的です。緑内障の手術方法は年々改良が進み、治療成績もかなり改善されてきましたが、合併症もあり、術後に再手術が必要となる可能性もあり、外来通院による定期的な管理が必要です。