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アルツハイマー病・認知症の診断・治療

地域の医療機関と協力して、正確な診断

アルツハイマー病とは?

 認知症(以前は()ほうといわれていた病気のことですが、「痴ほう」という言葉は差別的な用語としてとらえられる場合もあり、現在は厚生労働省の委員会が提唱した「認知症」という用語が使用されています)を引き起こす原因となる病気はさまざまあって、その中の1つがアルツハイマー病です。
 よく認知症とアルツハイマー病を混同している人がいますが、認知症(イコール)アルツハイマー病ではなく、アルツハイマー病は認知症を起こす病気の中の一種です。その頻度は認知症の約半分を占めるといわれ、一番多い認知症の原因疾患です。アルツハイマー病は脳にアミロイド蛋白(たんぱく)、そしてタウ蛋白が蓄積することによって神経細胞の障害、細胞死を起こしていろいろな症状を起こすようになります(図)。

図 アルツハイマー病の経過
最初に、発症前アルツハイマー病の段階でアミロイドが蓄積しはじめ(赤)、次いでタウが蓄積してきます(青)、MCI(軽度認知障害)の段階になって、初めてもの忘れなどの症状が現れ、やがてアルツハイマー病としての症状(黄)が出てきます。この間は約20~30年といわれています

アルツハイマー病の症状

 最初はもの忘れから始まることが多いです。同じことを何度も聞く、捜し物が多くなるといった症状から始まり、時や場所を認識できなくなったり、判断力が低下し、物とられ妄想(もうそう)、夜間せん妄、外出すると道に迷ってしまうなど日常生活に支障をきたしてくるようになり、さらに進行すると自分の家族も分からなくなったり、食事や歩行までも一人ではできなくなり、やがて寝たきりとなって最後は肺炎などの合併症で亡くなるという経過をたどります。

アルツハイマー病の診断

 まず問診により、現在の症状を把握します。一緒に暮らしている家族の方からも詳しい情報を聞きます。次に神経の障害がないか診察を行います。また神経心理検査といってミニメンタル試験などの検査で認知機能の障害をテスト形式で診ます。
 次が画像検査です。まずMRI(MRIができない人はCT)で脳の形態を診ます。アルツハイマー病の場合は海馬(かいば)とその周囲が強く萎縮してきます(画像1)。若年発症のアルツハイマー病の場合は海馬の萎縮は少なく、頭頂葉(とうちょうよう)の萎縮が強いです。
 次に脳血流SPECT(スペクト)、または脳FDG-PET(エフディージーペット)によって脳の機能を診ます。脳FDG-PETの方が脳血流SPECTより鋭敏に機能異常をとらえることができますが、現在、まだ健康保険適用になっていないので自由診療で脳FDG-PETを行うか、健康保険診療で脳血流SPECTを行います。脳血流SPECTやFDG-PETを行うと、アルツハイマー病では脳の中の頭頂連合野(とうちょうれんごうや)、側頭連合野、後部帯状回(こうぶたいじょうかい)楔前部(せつぜんぶ)という部位で血流や糖代謝が低下しているのが分かります(画像2)。進行すると前頭連合野の血流・代謝も低下してきます。このような所見を見いだすことによってアルツハイマー病を早期に見つけたり、ほかの認知症を起こす疾患と鑑別します。

  • 画像1 正常者とアルツハイマー病のMRI
    正常者では記憶に関係した海馬(○)の萎縮はありませんが、アルツハイマー病では萎縮がみられます
  • 画像2 正常者とアルツハイマー病の脳FDG-PET
    正常者では脳のブドウ糖代謝の低下はありませんが、アルツハイマー病では早期の段階では頭頂葉の代謝の低下がみられます(↑)

発症前アルツハイマー病の段階と軽度認知障害(MCI)

 アルツハイマー病の経過は、発症前アルツハイマー病の段階→軽度認知障害(MCI)→アルツハイマー病による認知症の経過をたどっていきます(図)。軽度認知障害は、もの忘れだけのような軽度の認知機能の障害の状態を示すもので、その原因の1つがアルツハイマー病です。ほかの疾患が原因でこの軽度認知障害を起こしていることもあるため、アルツハイマー病によるものか、別の疾患によるものかを正しく診断することが重要になっています。
 ここでMRIやPET、SPECT検査が非常に役に立ちます。発症前アルツハイマー病の段階は、MCI以前の段階で症状が全くありません。この段階ではMRIやSPECT検査で異常を見つけるのは困難ですが、アミロイドPETや髄液検査が役に立ちます。髄液(ずいえき)検査は腰椎(ようつい)の間に針を刺して髄液を抜き取るため、侵襲的な検査といえます。
 一方、PET検査は静脈注射した後、頭を撮影するだけなので非侵襲的検査といえます。このPET検査は現時点では、まだ臨床研究として検査が行われていますが、アミロイドPETという特殊な検査があります(画像3)。これは脳を解剖することなく、PET検査で脳にアミロイドがたまっているかどうかを診ることができる方法です。アミロイドは、アルツハイマー病の症状が出る20〜30年前から蓄積し始めると言われ、アミロイドPETは大きな期待が持たれています。現在タウPETも開発され、その臨床研究も当院では行っています。
 当院の早期認知症センターでは、地域の医療機関と連携して診断の難しい患者さんの診断依頼を受けて、前記の診察・検査を駆使して正確な診断ができるように努めています。

画像3 正常者とアルツハイマー病の脳アミロイドPET
正常者ではアミロイドの沈着はありませんが、アルツハイマー病では脳にアミロイドが沈着します(赤~黄色の部分)

アルツハイマー病の治療

 現時点では、アルツハイマー病を根本的に治す治療法はありません。世界各国で根治薬の開発に向けた研究が進められており、近い将来、臨床応用されることが期待されています。そこで現在できる治療法として進行をある程度の期間遅らせる薬があり、健康保険診療として4種類の薬剤が使われています。
 また、介護体制の構築が重要になってきます。患者さんは混乱しやすく、不安な状態で日々の生活を送っていますので、介護する家族の方がその状態を十分に理解して介護してあげることが大切です。

認知症とは?

 認知症とは「正常に発達した知能が脳の後天的な障害によって正常なレベル以下に低下した状態」を言います。認知症はさまざまな疾患が原因で起こります。「表」に認知症の原因となっている疾患を記します。

表 認知症の原因疾患

認知症の症状

 一番多い症状が「もの忘れ」で、新しいことを覚えられなくなり、同じことを何度も聞いたり、言ったりします。昔の記憶は症状がある程度進行するまではよく覚えています。認知症が少し進んでくると時間や場所が分からなくなったり、認知症の種類によっては幻視が見えたり、怒りっぽくなったりといった性格の変化がでてきたりします。

認知症の診断

 症状や病歴を本人や一緒に暮らしている人から詳しく聞きます。診察によって筋肉の緊張、手足のふるえ、歩行障害がないかなどを調べます。血液検査や神経心理検査という認知機能の評価を行う検査をします。そして画像検査(MRI検査、SPECT検査またはPET検査)を行います。MRI検査、SPECT検査は健康保険診療で行いますが、より良いPET検査は自由診療や研究として行っています。PET検査は、当院の高度先端総合医療センターPET分子イメージング部において早期認知症センターの協力のもと行っています。
 以上の過程を経て総合的に診断します。外科的・内科的疾患による認知症は治療できる疾患なので正しい診断によって、どの疾患が原因なのか見極めることが重要です。

  • 写真1 最新のPET/CT装置により、早期の病変を正確に見つけることが可能になりました
  • 写真2 専門知識を持ったスタッフが撮影・診断を行います

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