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狭心症・心筋梗塞の治療

体に負担の少ない手術

冠動脈バイパス術

 冠動脈バイパス術は、狭心症や心筋梗塞に対する外科手術で最も一般的に行われる手術です。心臓の筋肉に酸素の供給を行うために、3本の血管(冠動脈)が心臓を包むように取り巻いています。(図1)この血管が細くなる(狭窄する)と、心臓の筋肉に酸素が届けられにくくなります。また、この血管が急に詰まった(閉塞した)時は、心臓の筋肉が壊死を起こします。これに対して、狭窄・閉塞部分より先に血管をつなぎ、心臓の筋肉に十分な酸素供給を行う手術を冠動脈バイパス術といいます。まさに血流のバイパスを作成し、血液の流れを再建する手術です。

図1 冠動脈

バイパスに用いる血管

 では、どういった血管をバイパスに用いるのでしょうか。最もよく利用される血管は内胸動脈です。(図2)これは、他の血管によるバイパスに比べ長期に開存を保ち(10年開存率は90%程度)、生存率を改善します。特に左の内胸動脈は、左冠動脈前下行枝(冠動脈で最も重要な血管)にバイパスされることが多く、冠動脈バイパス術のGold standardと言えます。右の内胸動脈もしばしば用いられ、複数の病変がある患者さんでは、両方の内胸動脈を使用する時もあります(図3)。その他、下肢の大伏在静脈や前腕の橈骨動脈、右胃大網動脈といった血管がバイパスに使用されます。

  • 図2 バイパスに使われる内胸動脈
  • 図3 両方の内胸動脈をバイパスに使用
    右内胸動脈を切り離し、左内胸動脈にY字型につなぎ、複数箇所へのバイパスを行います

手術の適応

 冠動脈バイパス術の他にも薬物治療やカテーテル治療が選択される場合がありますが、日本の関連学会が作成した2019年のガイドライン(1)では複数か所の病変に対してはカテーテル治療よりも冠動脈バイパス術が推奨されています。治療方法の決定には心臓外科医と循環器内科医と一緒のハートチームで病変や患者さんの状態を評価して行われます。

手術の方法

 手術の方法には、人工心肺装置を使用し心臓を止めて行う方法(ONCAB)と、人工心肺装置用せずに心臓を動かしたまま行う方法(OPCAB)があります。特に高齢、脳血管障害や腎機能障害を有する患者さんではOPCABを積極的に採用していますが、症例によってはONCABの方が安全で有益な場合があります。術前の評価を慎重に行って手術方法を決定しています。

術後経過

 通常は術後10日から2週間で退院できます。術直後よりリハビリを開始して早期の日常生活への復帰を促します。ただし手術には合併症のリスクがあります。日本胸部外科学会の2016年のアンケート (2) では日本全体の冠動脈バイパス術の院内死亡率は1.3%でした。しかし病状が安定している患者さんの場合はより低い死亡率が期待できます。

図4 左室形成術の図
左心室を切り開き、パッチを心室内に縫い付け、弱った心筋に圧力がかからないようにします

診療実績

 過去5年間の当科での単独冠動脈バイパス術件数(複合手術を含む)の推移を示します。

図5 手術症例の内訳
当院での冠動脈バイパス術の内訳を示します。毎年80~100例程度行っています

参考文献;

(1)安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(合同研究班報告、2018年改訂版)
(2)Thoracic and cardiovascular surgery in Japan in 20169. General Thoracic and Cardiovascular Surgery (2019) 67:377–411

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