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脳腫瘍の治療

内視鏡を駆使した体にやさしい手術

脳腫瘍とは?

 頭蓋内(ずがいない)に発生する腫瘍を言いますが、頭蓋内にあるあらゆる組織から発生し、細かく病理学的に分類すると150以上の種類になります。全てががんのように悪性ではなく、良性として扱われるものもあります。しかし、脳腫瘍で良性と分類されるものでも、ほかの臓器の悪性腫瘍と同じような経過をたどるものもあり、臨床経過や画像、手術所見、病理診断、遺伝子診断などで総合的に腫瘍を見極め、専門性を持って、治療戦略を練る必要があります。
 頭蓋内に発生する腫瘍で最も多いものは、髄膜腫(ずいまくしゅ)神経膠腫(しんけいこうしゅ)(グリオーマ)で、それぞれほぼ4分の1を占めます。さらに下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)の順になります。これらはさらに細かく分類され、手術を含めた「治療戦略」が大きく異なり、その治療効果も違ってきます。逆に、髄膜腫などは近年MRIの普及や健康への関心が増え、無症候性のものが増加し経過観察して、様子を見るべきものもあります。
 おおまかに神経膠腫に代表される脳実質から発生する腫瘍は悪性(浸潤性)が多く、一方、髄膜腫や下垂体腺腫、神経鞘腫に代表される脳実質外から発生する腫瘍は良性が多い傾向があります。他臓器のがんから脳にくる転移性脳腫瘍も頻度の高い脳腫瘍になりますが、原因は肺がんが一番多く、次いで乳がんになります。
 また、小児期(15歳未満)でも脳腫瘍は発生しますが、多い腫瘍は星細胞腫(せいさいぼうしゅ)胚細胞性腫瘍(はいさいぼうせいしゅよう)髄芽腫(ずいがしゅ)頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)上衣腫(じょういしゅ)などで、成人のそれとは異なった種類が多く特徴があり、治療法も異なります。

脳腫瘍の診断と治療

症状――けいれん発作が起こることも
 脳は頭蓋骨に囲まれた閉鎖腔(へいさくう)になるため、一定の体積を占める病変があると頭蓋内圧亢進症状(こうしんしょうじょう)が出ます。また腫瘍ができた部位によって、脳の圧排(あっぱい)や破壊により機能の欠落症状:局所症状(巣症状)が起こります。そのほか、腫瘍によって刺激症状としてのけいれん発作や、腫瘍が髄液の流れを止め、その結果、水頭症が起こることがあります。
脳圧亢進症状――頭痛・嘔気/嘔吐・うっ血乳頭など
 3徴候として、頭痛・嘔気(おうき)/嘔吐(おうと)・うっ血乳頭(眼底の変化で、長期になると視力が低下)があります。けいれん発作では、腫瘍のある側の反対側の手足が意志に反して動き、意識消失を伴うことがあります。大脳半球症状の約3分の1はけいれん発作が初発症状です。局所症状(巣症状)は脳腫瘍の発生部位に応じて、いろいろな症状が出ることを言います。
 例えば、前頭葉前部では注意力や集中力の障害、前頭葉後部では片麻痺(かたまひ)や失語(言葉が出にくくなる/右利きの場合は左側の前頭葉障害)、左の側頭葉では失語(言葉が分かりにくくなる/右利きの場合は左側の側頭葉障害)、後頭葉では反対側の半盲(視野が半分欠ける)、小脳テントから下の腫瘍では、髄液の通過障害をきたし、水頭症で脳圧亢進症状(のうあつこうしんしょうじょう)が現れることがあります。
検査――CTで90%以上診断できる
 CT検査で90%以上の確率で脳腫瘍の部位診断が可能です。撮影は短時間で済みます。MRI検査で詳細な画像を得ることができ、造影剤を加えることもあり、脳腫瘍の診断には必須です。放射線の被曝(ひばく)はありません。脳血管撮影を行えば、血管の豊富な腫瘍なのか、手術で腫瘍に到達する場合に重要な血管は損傷しないかなど、治療の安全性向上のため、多くの情報が得られます。SPECT(スペクト)PET(ペット)は、放射性同位元素を利用して、腫瘍の悪性度の指標や治療効果の判定に使用します。さらに神経心理検査を行うことで、腫瘍による注意力障害や失語症、記銘力障害(きめいりょくしょうがい)(物忘れ)などを客観的に評価できます。
治療――安全で体に負担の少ない手術
 より安全な手術、より摘出度が高い手術、より体への負担が少ない手術をめざしています。腫瘍の部位によって手術体位、皮膚切開、開頭の位置、腫瘍への接近法が異なります。脳腫瘍に対する脳神経外科手術として、開頭術、穿頭術、経蝶形骨洞手術(けいちょうけいこつどうしゅじゅつ)、神経内視鏡手術、脳室腹腔短絡術(のうしつふくくうたんらくじゅつ)などがあり、戦略的に摘出や安全を高める機器として、ニューロナビゲーション、蛍光標識誘導手、ファイバートラッキング、覚醒下手術(かくせいかしゅじゅつ)、術中電気生理学的解析などを使っています(画像1)。
 術後は、放射線治療が必要な場合があります。当院は放射線治療科で強度変調放射線治療(IMRT)を行い、必要な範囲に高線量、離れた部位は照射量を軽減し、高次機能障害や皮膚障害、視神経、聴力の障害を減らすことができます。化学療法として、悪性神経膠腫にはテモゾロミド内服、さらにアバスチン点滴、ギリアデル術中使用があります。悪性リンパ腫、胚細胞腫(はいさいぼうしゅ)髄芽腫(ずいがしゅ)では、それぞれに応じた薬剤が選ばれます。選定については、患者さんや家族へ説明の上で当院倫理委員会(IRB)承認の多施設、あるいは単施設の臨床試験に参加してもらうことがあります。

画像1 症例「左大脳鎌髄膜腫」に提示した50歳代前半の女性です。画像の左にMRI造影画像3方向で撮影された腫瘍(←)と、カラー部分でファイバートラッキング技術で撮影した左右の錐体路(脳内の運動神経の走行)を示しています。これらによって腫瘍は運動神経の後方にあることを確認し、術中ナビゲーション装置で位置の確認をしながら手術を行いました。新たな症状はなく、腫瘍は全て摘出できました(右)

内視鏡を駆使した安全確実な手術――内視鏡下経鼻的脳下垂体腫瘍摘出術

 脳下垂体にはさまざまな種類の腫瘍が発生します。下垂体腺腫が約70%と最も多く、そのほかに頭蓋咽頭腫や髄膜腫などが挙げられます。下垂体は解剖学的には最も脳の深い部位に位置し(画像2左)、この部位に発生する腫瘍の症状は、主にホルモンの分泌異常症状(過剰または低下)と眼症状(視野異常や視力低下など)の2つがあります。この部位の腫瘍に対するアプローチ方法は開頭による方法と鼻を経由した方法があります(画像2)。
 脳に直接触れることなく、腫瘍摘出が可能で鼻からアプローチする経鼻法を主に選択します。特に近年では内視鏡手術が発展し、当科は、大部分の下垂体腫瘍に対して経鼻法による内視鏡下での腫瘍摘出術(正式名称/内視鏡下経鼻的脳下垂体腫瘍摘出術)を行っています。直径4mmの内視鏡を使用して、鼻の入口から約10cmほど奥にある腫瘍へアプローチします(写真、画像3)。
 この手術法の利点は、鼻の奥にある粘膜を切開して腫瘍にアプローチするため、外見上で確認できる傷口はありません。特殊な技術、機器を必要としますが、より侵襲の低い(体に負担の少ない)手術として注目されています。完全に回復した症例の画像を示します(画像4)。

  • 画像2 脳模型による下垂体イメージ(→)と、下垂体腫瘍に到達する術式による経路の違いを示します
  • 写真 模型を使った経鼻法のイメージと、実際の手術で使用する内視鏡を示します
  • 画像3 実際の手術中の内視鏡画像
  • 画像4 60歳代女性の下垂体腺腫(ホルモン非産生)
    眼症状にて発見された大きな下垂体腺腫(*)。内視鏡下経鼻的脳下垂体腫瘍摘出術を行い、腫瘍は全て摘出、眼症状も完全回復しました

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