文字サイズ
T
T
ページの先頭です。

病名検索

乳がんの薬物療法

タイプや進行度に合わせて実施

乳がんの薬物療法

 乳がんの治療に関しては、手術療法を始めとして、放射線治療や種々の薬を使う薬物療法があり、乳がんの進み具合(ステージ)によりこれらの治療法を組み合わせる事で、上乗せ効果が期待されています。薬物療法に関しては、まず、乳がんの場合はサブタイプ(図1)により、ホルモン療法、抗HER2療法、それ以外の化学療法を選択していきます。また、使用する薬剤は、がんのステージによっても異なります。

図1 乳癌のサブタイプ

ホルモン療法に関して

 乳がん患者さんの約70%は、ホルモン剤の効果が期待出来るとされています(表1)。それは、がんの増殖がホルモンを介して行われるためであり、このホルモンを直接阻害する薬剤や、ホルモンが結合する受容体を破壊する薬剤を使用することで、効果が得られるとされています。使用するホルモン剤はまず患者さんが閉経前か閉経後によって異なります。閉経前は飲み薬のホルモン剤に加えて、注射薬のホルモン剤を併用する場合があります。また、手術の前後(周術期)で使用できるホルモン療法と、進行・再発時期で使用できるホルモン療法とがあり、前者は単剤のホルモン療法であるのに対して、近年後者で使用されるホルモン療法(2014年以降)には分子標的療法との併用療法が多く、mTOR阻害剤(エベロリムス)やCDK4/6阻害剤(パルボシクリブやアベマシクリブ)が広く使用されており、これまでのホルモン単剤療法に比較してより高い効果が報告されています。周術期のホルモン療法に関しては閉経時期にもよりますが、5年から10年の内服期間が必要とされています。

表1 ホルモン剤

抗HER2療法に関して

 乳がん患者さんの約20%にはHER2タンパクという蛋白が過剰発現しており、トラスツズマブを始めとした抗HER2薬(表2)が奏効することが知られています。今まで周術期には、トラスツズマブのみ使用可能(術後1年間投与)でしたが、2018年よりペルツズマブとの併用療法が使用出来るようになり、従来の治療より高い奏効が得られています。進行・再発時期では、トラスツズマブおよびペルツズマブと化学療法の併用療法が1次治療とされており、2次治療にはT-DM1(トラスツズマブにエムタンシンという化学療法を結合させた薬剤)が用いられています。その他、ラパチニブという内服の抗HER2薬もあり、カペシタビンという内服の抗がん剤と併用されています。ただ、この抗HER2薬の副作用の一つに、心機能低下があるため、約3か月毎に心臓のエコー検査が必要とされています。

表2 抗HER2薬

化学療法に関して

 すべての乳がんに対して使用可能なのが抗がん剤(化学療法)であります(表3)。周術期では、サブタイプの中で悪性度の高い、乳がん全体の10%を占めるトリプルネガティブ乳癌、再発リスクの高いホルモン陽性乳がん、HER2陽性乳がんでアンスラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤の単独または逐次併用療法がなされています。進行・再発時期では各種抗がん剤の単独療法が一般に用いられていますが、病勢進行の早い場合には、タキサン系の薬剤であるパクリタキセルと血管新生阻害剤であるアバスチンとの併用療法が用いられることがあります。

表3 化学療法

新しい乳がんの治療薬

 今までに述べてきた薬剤の他に、今までの薬剤とは全く違う機序で乳がんに用いられる薬剤が2種類あります。一つ目は、PARP(パープ)阻害剤(オラパリブ)と呼ばれる薬剤があります。BRCA(ブラカ)遺伝子という、遺伝子に傷がついた際にその傷を治すために働く遺伝子に変異がある場合、反対側の乳がんになりやすかったり、卵巣がんになりやすかったりする事が知られており、この遺伝子の変異が作り出す異常なタンパクを作らせないようにするのがこのPARP阻害剤であります。ただ、この遺伝子は他の家族にも遺伝することが知られています。そのため、この薬剤を使う患者さんや家族を対象とした遺伝カウンセリングが必要になる場合があります。二つ目は、他のがんでも幅広く用いられている免疫チェックポイント阻害剤とよばれる薬剤があります。がん患者さんでは、本来がんができた時にがんを排除しようとする自身の免疫機構が働かないようになっている場合があります。この免疫機構を働かなくするスイッチの役割として、PD-1/PD-L1というものがあり、乳がんではこのPD-L1を標的とした抗体(アテゾリズマブ)が承認されています。どちらの薬剤も今のところは周術期では使用ができませんが、近い将来使用が期待されています。

診療科案内

受診について

病名検索