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子宮頸がんの治療

国内有数の内視鏡手術

子宮頸がんとは?

 子宮は赤ちゃんを守り育てる臓器です。成熟女性では、ほぼニワトリの卵大の大きさで、全長約7cm、重さ60~70gです。「図1」のように、子宮は子宮頸部(しきゅうけいぶ)と体部の2つに分けられ、子宮頸がんは、子宮頸部(子宮の入口部分)に発生します。国内では、年間約1万1000人の女性が子宮頸がんにかかり、約3000人が亡くなっています。近年、若い女性の発症が増加しており、特に20~30歳代がかかるがんで、第1位となっています。
 子宮頸部は、表面を上皮細胞が覆っています。その上皮細胞には、頸部の入口近くにある扁平上皮細胞と、それに続いて子宮腔(しきゅうくう)寄りにある円柱上皮細胞(腺細胞)の2種類が存在します(図1)。子宮頸がんは主に、この2種類の細胞の境界(SCJ/扁平円柱上皮境界)付近から発生し、扁平上皮細胞にできる「扁平上皮がん」と、腺細胞にできる「腺がん」の2つが大多数を占めています。 子宮頸がんの発生には、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が関与していることが分かっています。HPVがSCJにある細胞に感染することで、子宮頸がんが発生するわけですが、約100種類あるHPVの中でも、15種類が子宮頸がんの発生と関係が深いとされ、これらをハイリスクHPVと呼んでいます。
 子宮頸部の細胞には、上皮細胞と、その下にある間質細胞があり、これら2つの細胞は、基底膜(きていまく)によって隔てられています(図1)。上皮細胞から発生したがんが、上皮内にとどまっている段階を「上皮内がん」と呼びます。この段階では、リンパ節転移などはほとんどなく、手術で摘出すればほぼ治る初期の段階です。
 しかし、がんが進行すると基底膜を破って間質(かんしつ)に入り込んでいきます。この段階は「浸潤がん」と呼ばれますが、がんの広がり具合によって進行の段階を分類します。がんが子宮頸部にとどまっていればⅠ期、がんが子宮頸部を超えて、子宮周囲の組織や(つち)へ広がるとⅡ~Ⅲ期、子宮周囲の膀胱(ぼうこう)や直腸、あるいは肺や肝臓など遠く離れた臓器へ転移(遠隔転移)するとⅣ期となります(図2)。
 上皮内がんで発見されれば、ほぼ100%治ることは先ほど述べた通りですが、浸潤が進むほど治療は難しくなり、Ⅰ期以上の5年生存率(5年後に患者さんが生存している確率)は、Ⅰ期92.5%、Ⅱ期76.3%、Ⅲ期54.3%、Ⅳ期23.4%と報告されています(財団法人がん研究振興財団・がんの統計2013)。

  • 図1 子宮と子宮頸がん
    子宮は子宮頸部と体部に分けられます。子宮頸がんは頸部のSCJ付近から発生します。
    (出典/患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドラインの解説・日本婦人科腫瘍学会編)
  • 図2 子宮頸がんの臨床進行期分類
    内診や画像検査を使って進行期を決定
    (出典/「がんとどう向き合うか」子宮がん・財団法人がん研究振興財団編)

診断と検査

 子宮頸がんでは、細胞診、コルポスコピー(腟拡大鏡診)、組織診(病変の一部の組織を採取して調べる検査)を行い、がんの確定診断を行います。その上で、内診やMRI、CT、PETといった画像検査の結果を参考にしながら進行期を決定し、治療方針を立てていきます。

治療内容と合併症

 子宮頸がんの治療は主に、手術療法と放射線療法の2つに大別されます。化学療法(抗がん剤治療)が、最初の治療として選択されるのは、Ⅳb期以外では一般的にはなく、通常は手術あるいは放射線治療に組み合わせて行います。進行期II期までは、手術での摘出が可能ですが、摘出が難しいIII期以上では、一般には手術は行わず、放射線治療を主体に治療方針を組み立てます。 手術では主に子宮全摘出術を行いますが、進行期によって子宮の摘出方法が違い、リンパ節郭清術(せつかくせいじゅつ)の必要性も異なります。また同じ進行期でも、がんの大きさや扁平上皮がんか、腺がんか、といった組織型の違い、患者さんの年齢や合併症の有無、妊娠の希望の有無によっても治療方針は違います。
 一般的な治療方針について「表」と「図3」にまとめました。
 この患者さんですが、検査の結果、子宮頸がんの中の扁平上皮がんで、進行期はⅠb1期と診断され、治療は骨盤リンパ節郭清を含めた広汎子宮全摘術(こうはんしきゅうてきしゅつ)を行いました(写真)。この手術では、リンパ節を郭清(摘出)することでリンパ液の流れが悪くなってしまうため、下肢がむくむ(リンパ浮腫)ことがあります。さらに、広汎子宮全摘術を行うことで、骨盤神経や下腹神経といった排尿機能に関係する神経を切断し、術後に排尿障害を生じる可能性もあります。
 そのため現在は、患者さんのがんの状態にもよりますが、骨盤リンパ節の郭清する範囲を慎重に選定したり、骨盤神経温存術式という方法を取り入れるといった予防策がとられています。その結果、術後合併症の発生頻度は、以前と比較して低下傾向にあります。この患者さんも、下肢リンパ浮腫は現れず、また排尿障害も生じませんでした。
 なお、若い人の場合、広汎子宮全摘術でも卵巣を温存する(摘出しない)ことが可能な場合があります。この患者さんも、卵巣は摘出しませんでした。

  • 図3 子宮頸がんの手術法
    子宮頸部円錐切除術では子宮は温存されます。また子宮全摘術には3つの術式があり、子宮頸がんに行われる広汎子宮全摘術では、子宮やその周囲の組織、腟などを幅広く切除します
  • 写真
    a.子宮頸がんのコルポスコピー所見
    b.手術摘出標本
    コルポスコピー(腟拡大鏡診)で見ると、奥の方に正常子宮頸部があり、そこから外へ突出するように、がんができているのが分かります

表 子宮頸がんの治療法
進行期を決定し、患者さんの状態を考慮して、治療法を選択します。上皮内がん~Ⅰb1期までは、患者さんの希望によっては、子宮を温存する治療法を選択することができます(注:表内の白の部分は、一般的には選択されない治療法)

子宮頸がんに対する内視鏡手術

 近年、子宮頸がん手術にも、低侵襲(体に負担の少ない)な内視鏡手術が取り入れられています。広汎子宮全摘術は、現時点で健康保険診療が認められているのは開腹手術と、腹腔鏡下手術(ⅠA2、ⅠB1、ⅡA1期のみ)があります。またロボット手術による広汎子宮全摘術(先進医療)も行われています。
 国内で、これらの内視鏡手術を導入している施設はまだ限られています。当科ではいずれの手術も、適応のある患者さんに対して積極的に行っており、内視鏡手術では既に57例の内視鏡下での広汎子宮全摘術(内視鏡45例、ロボット12例{2019年8月現在})を実施しています。

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