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頸部食道がん

声を残して、がんを治す

頸部食道がんとは?

 頸部食道がんは、食道がん全体の約4~5%と頻度は少ない疾患ですが、胸部食道がん同様に悪性度の高い腫瘍(しゅよう)です。ただ、頸部食道は喉頭と解剖学的に一体化しており(図1)、複雑な神経反射と協調運動で液体や食物が気管に入る誤嚥(ごえん)を防いでいます。そのため、これらの機能を温存して頸部食道を切除することは困難な上、頸部に代用となる消化管もなく治療が複雑です。

図1 頸部の解剖(左)と標準術式(右)
喉頭と食道は一体化。手術では喉頭とともに腫瘍がひと塊に切除され、遊離空腸で再建

診断と治療方法

 診断に要する検査や進行度は、胸部食道がんと同様です。気管浸潤(しんじゅん)例でも喉頭・気管合併切除によって根治できる半面、浸潤がなくても術後の誤嚥のリスクから喉頭を合併切除するのが標準手術とされているため、術後は通常、声を失ってしまいます。近年は、抗がん剤と放射線を併用する化学放射線療法によって、手術しないで腫瘍の完全消失を図る治療が行われています。頸部食道は放射線の感受性も高く、当院では約3割の方がこの治療だけで根治しています。
 ただ、腫瘍が違残(いざん)または再増殖した場合には手術で切除するしかありません。通常は、喉頭、気管、頸部食道とともに左右の頸部リンパ節を切除し、小腸の一部(空腸)を頸部に移植して消化管を再建(遊離空腸(ゆうりくうちょう)再建術/咽頭(いんとう)・食道との消化管吻合(ふんごう)と顕微鏡下の血管吻合)、最後に前頸部に永久気管瘻(えいきゅうきかんろう)を作成します(図1)。術後は空気と食事の通り道は別で誤嚥の心配はありませんが、声が出せない、鼻がかめない、頸部まで入浴できない、吸入による気道の乾燥予防が必要など、問題と注意点があります。

機能温存と安全性の向上

 私たちは長年この問題に取り組んできました。まずは根治目的で化学放射線療法を行い、腫瘍が消失すれば経過観察、違残すれば喉頭温存による治癒切除をめざしています。このため、喉頭と食道の限界までの剥離法(はくりほう)や術後の誤嚥予防のための嚥下補助術式を考案して機能温存と安全性の向上を図り、医師、看護師、理学療法士がチーム一体となって術後リハビリをサポートすることで喉頭温存を可能にしてきました(図2)。自分の声で会話ができることの意義は計り知れません。患者さんとともにリスクを共有して一緒に取り組んでいきたいと思っています。
 食道入口部から胸部上部食道に一部かかる大きな腫瘍で喉頭合併切除は避けられないと思われる場合でも、化学放射線療法で著明な縮小が得られ、喉頭温存による腫瘍の切除と再建ができることがあります(画像)。

  • 図2 喉頭温存術式
    化学放射線療法で腫瘍縮小を図った後に喉頭温存による腫瘍切除と遊離空腸再建を行う
  • 画像 治療前のMRI像(左)、喉頭温存術後の下咽頭の内視鏡像(右)下咽頭に及ぶ頸部食道がん(◀)下咽頭まで切除して吻合

診療実績

 現在、頸部食道がん全体の約半数の症例で喉頭が温存できるようになっています。あきらめないで、一度相談してください。

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