適切な診断と治療選択が大切
首の骨(
画像1 頸椎症性脊髄症患者さんのMRI
矢印で示す部位で、前後から脊髄の圧迫が認められます
手足の感覚異常や運動障害は、脳などの中枢神経障害、神経の病気や手足の
まず外来で頸椎疾患が疑われる場合、頸椎のX線撮影を行い、必要に応じて頸椎MRIを撮影します。脊髄がどの部位で圧迫を受ければ「どこに」「どのような」症状や所見が出るかは神経学的に既に証明されているため、画像診断(X線における脊柱管の狭さ、椎骨の配列異常やずれ、MRIにおける脊髄の圧迫など)と症状の部位や性状が一致していることが診断上極めて重要です。症状が重症化していて手術をする必要がある場合は、1泊入院で脊髄造影とCT撮影の検査を行った上で術式を決定します。
首が痛い、肩甲骨あたりが痛い、手がしびれるなどの症状だけの場合は、飲み薬や物療での治療が主となります。ただし、首や手の痛みだけであっても、安静にしているにもかかわらず激しい痛みを伴う場合や、発熱を伴う痛みは要注意なので、早い時期に専門施設を受診することをお勧めします。一方、首の痛みや手足の軽いしびれだけでなく、手指や足に動きにくさ、具体的にいうと「箸が使いづらい」「小さなボタンがとめづらい」「字が書きにくくなってきた」「階段を下りにくくなってきた」「小走りがしにくくなってきた」などの症状が出ている場合は、脊椎脊髄病の専門施設を受診することをお勧めします。
このような症状は、首の部分で神経が圧迫されることによって生じている可能性があり、これ以上症状が進行すると平地でも
このように首で脊髄が圧迫されている状態で、万が一転倒すると、首の脊髄を痛めてしまうことがあり、非常に危険なため、転ぶ危険性が高い患者さんや、首が原因で尿が出にくくなっている患者さんには早期の手術を勧めています。
前方手術
圧迫部位が短範囲(1~2か所)である場合、あるいは前方からの圧迫が主である場合は前方手術を行います。手術は椎骨前方を掘っていき、脊髄の圧迫を前方から解除した後、掘った部分に骨を移植して固めます(画像2)。
後方手術
圧迫部位が複数か所ある場合、全体的に脊柱管が狭い場合、あるいは高齢者や
一方、患者さんの中には頸椎の配列異常のため(画像4a)、椎弓形成術単独では成績が劣ることが分かっています。このようなケースに対しては、後ろから内固定材料を使って頸椎を矯正固定することで頸椎の配列を整える手術が必要になります。
前後方手術
頸椎の配列異常があるにもかかわらず、椎骨が前方で固まっている場合は、前方から骨を一部削った後、後方から内固定材料を使った除圧矯正固定術が必要になる場合があります(画像4b)。
どの術式でも、概ね手術成績は同等で、日本整形外科学会が規定した改善率評価で50~60%の改善が期待できます。ただし、重症例や高齢者での成績は劣ります。合併症としては、術式を問わず感染、術後血腫、神経障害、術後C5
画像4
a.頸椎の配列異常を示すX線像(逆S字状の配列異常があります)
b.頸椎前後方手術術後X線
(椎弓形成術と同時に行った内固定材料を使い矯正固定手術によって頸椎の配列異常が矯正されていることが分かります)
c.術後CTで頸椎スクリューが適切かつ安全な位置に挿入されていることが分かります
2014年の当科が行った脊椎手術数は143例中、頸椎手術が53例でした。うち椎弓形成術が25例、頸椎前方固定術が5例で、最も難易度の高い内固定材料を使用した頸椎後方再建術が23例に行われています。手術は全例脊髄モニタリング(術中操作によって脊髄が痛まないかを監視する機器)を使用して安全性に留意しながら行っています。
当院ではCTナビゲーションシステムを備えた最先端のハイブリッド手術室を導入予定です。頸椎の再建術など難易度の高い手術をより安全でスピーディーに行うことが可能になります。また、当科では患者さんへの負担を減らすため、できるだけ低侵襲の術式を開発しており、より早期の社会復帰に取り組んでいます。