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頸椎症性脊髄症の治療

適切な診断と治療選択が大切

頸椎症性脊髄症とは?

 首の骨(頸椎(けいつい))は7個の椎骨(ついこつ)椎間板(ついかんばん)靭帯(じんたい)で連結された構造をしています。その頸椎部(けいついぶ)にて、脊髄(せきずい)の通る通路(脊柱管(せきちゅうかん))が椎間板や靭帯の突出やたくれこみが原因で狭くなることで脊髄が圧迫され(画像1)、手足の運動障害やしびれ、痛みなどの症状が出る病気です。首で神経が圧迫される原因としては頸椎椎間板ヘルニア、頸椎症、頸椎後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)、関節リウマチ、脳性麻痺、腫瘍、感染、外傷などが挙げられます。

画像1 頸椎症性脊髄症患者さんのMRI
矢印で示す部位で、前後から脊髄の圧迫が認められます

脊髄専門医による確定診断

 手足の感覚異常や運動障害は、脳などの中枢神経障害、神経の病気や手足の末梢(まっしょう)神経障害でも生じることがあるため正しい診断が必要ですが、頸椎由来のそれには特徴があり、脊椎(せきつい)専門医にかかれば確定診断を得ることは比較的容易です。当科では2人の日本脊椎脊髄病学会認定の指導医と、3人の日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医が診断と治療にあたっています。
 まず外来で頸椎疾患が疑われる場合、頸椎のX線撮影を行い、必要に応じて頸椎MRIを撮影します。脊髄がどの部位で圧迫を受ければ「どこに」「どのような」症状や所見が出るかは神経学的に既に証明されているため、画像診断(X線における脊柱管の狭さ、椎骨の配列異常やずれ、MRIにおける脊髄の圧迫など)と症状の部位や性状が一致していることが診断上極めて重要です。症状が重症化していて手術をする必要がある場合は、1泊入院で脊髄造影とCT撮影の検査を行った上で術式を決定します。

治療方針と手術方法、予後など

 首が痛い、肩甲骨あたりが痛い、手がしびれるなどの症状だけの場合は、飲み薬や物療での治療が主となります。ただし、首や手の痛みだけであっても、安静にしているにもかかわらず激しい痛みを伴う場合や、発熱を伴う痛みは要注意なので、早い時期に専門施設を受診することをお勧めします。一方、首の痛みや手足の軽いしびれだけでなく、手指や足に動きにくさ、具体的にいうと「箸が使いづらい」「小さなボタンがとめづらい」「字が書きにくくなってきた」「階段を下りにくくなってきた」「小走りがしにくくなってきた」などの症状が出ている場合は、脊椎脊髄病の専門施設を受診することをお勧めします。
 このような症状は、首の部分で神経が圧迫されることによって生じている可能性があり、これ以上症状が進行すると平地でも(つえ)が必要になったり、ひどくなると歩けなくなったり、尿や便を出しにくくなる危険性さえあります。
 このように首で脊髄が圧迫されている状態で、万が一転倒すると、首の脊髄を痛めてしまうことがあり、非常に危険なため、転ぶ危険性が高い患者さんや、首が原因で尿が出にくくなっている患者さんには早期の手術を勧めています。
前方手術
 圧迫部位が短範囲(1~2か所)である場合、あるいは前方からの圧迫が主である場合は前方手術を行います。手術は椎骨前方を掘っていき、脊髄の圧迫を前方から解除した後、掘った部分に骨を移植して固めます(画像2)。
後方手術
 圧迫部位が複数か所ある場合、全体的に脊柱管が狭い場合、あるいは高齢者や骨粗(こつそ)しょう(しょう)の患者さんで骨がつきにくい場合は後方手術(椎弓形成術(ついきゅうけいせいじゅつ))を行います。後方から縦に展開し、脊椎後方の骨(椎弓)を数か所形成して脊柱管を広げます(画像3)。
 一方、患者さんの中には頸椎の配列異常のため(画像4a)、椎弓形成術単独では成績が劣ることが分かっています。このようなケースに対しては、後ろから内固定材料を使って頸椎を矯正固定することで頸椎の配列を整える手術が必要になります。
前後方手術
 頸椎の配列異常があるにもかかわらず、椎骨が前方で固まっている場合は、前方から骨を一部削った後、後方から内固定材料を使った除圧矯正固定術が必要になる場合があります(画像4b)。
 どの術式でも、概ね手術成績は同等で、日本整形外科学会が規定した改善率評価で50~60%の改善が期待できます。ただし、重症例や高齢者での成績は劣ります。合併症としては、術式を問わず感染、術後血腫、神経障害、術後C5麻痺(まひ)(上肢の拳上がしにくくなる)などを、また前方手術では呼吸・嚥下(えんげ)困難、嗄声(させい)(声がしゃがれる)、偽関節(移植した骨が生着しない)などを生じる可能性がありますが、大半は一過性です。固定術を行った場合は術後2~3か月間のカラー固定をする必要があります。術後の入院期間は術式を問わず2~4週間です。

  • 画像2 1か所での圧迫による頸椎症性脊髄症で前方手術を行いました(左が術前、右が術後)。第4頸椎と第5頸椎の間に一部石灰化を伴う椎間板の膨隆があり、脊髄を圧迫していました。同部位での前方手術を行い、椎間板や骨のとげを切除し、自分の骨を詰めた箱(ケージ)を椎体の間に移植しました。前方にプレートを使用した固定を併用しています
  • 画像3 多椎間での頸椎症性脊髄症に対して椎弓形成術を行いました(左が術前、右が術後)。CT像にて、椎弓を観音開きとし脊柱管が拡大していることが分かります

画像4
a.頸椎の配列異常を示すX線像(逆S字状の配列異常があります)
b.頸椎前後方手術術後X線
(椎弓形成術と同時に行った内固定材料を使い矯正固定手術によって頸椎の配列異常が矯正されていることが分かります)
c.術後CTで頸椎スクリューが適切かつ安全な位置に挿入されていることが分かります

診療実績

 2014年の当科が行った脊椎手術数は143例中、頸椎手術が53例でした。うち椎弓形成術が25例、頸椎前方固定術が5例で、最も難易度の高い内固定材料を使用した頸椎後方再建術が23例に行われています。手術は全例脊髄モニタリング(術中操作によって脊髄が痛まないかを監視する機器)を使用して安全性に留意しながら行っています。

今後の展望

 当院ではCTナビゲーションシステムを備えた最先端のハイブリッド手術室を導入予定です。頸椎の再建術など難易度の高い手術をより安全でスピーディーに行うことが可能になります。また、当科では患者さんへの負担を減らすため、できるだけ低侵襲の術式を開発しており、より早期の社会復帰に取り組んでいます。

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