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冷え症の治療

関西唯一の大学附属の東洋医学専門研究機関

冷え症には、東洋医学が有効

 日本人にはなじみ深い病気ですが、西洋医学ではあまり認識されていません。女性に多い悩ましい症状の1つとされ、女性の54.5%に見られると報告されています。体を構成するさまざまなパーツの中で、筋肉は血流が多く熱を生み出すため、男性と比べて筋肉の少ない女性の方が冷えやすいと考えられています。また、高齢者においては筋肉が減少しやすく(サルコペニア)、冷え症状がでやすくなります。筋肉量の測定は体組成計(たいそせいけい)という特殊な体重計のような機械で簡単に測定できます(図1)。運動は、運動する際に血流を増やすだけでなく、運動により筋肉を増やすことで血流増加が期待できます。
 また、冷え症は思春期と更年期に多く見られ、自律神経の失調症状と関係が深いようです。
 漢方診療や東洋医学では、西洋医学とは少し異なった診断を行います。患者さんの体質・個体差を重視し、詳細な問診を行うとともに、独特の診断方法(舌の形状や色、腹部の筋肉の緊張、脈の流れ方など)を組み合わせて診断します。また、「図2」に示す「気・血・水」の概念のような東洋医学独特の理論があります。「元気の気」や「気力の気」といえば、なんとなく理解できるのではないでしょうか。画像診断や血液検査のない2000年前の医療では、患者さんに現れる細かな変化をとらえることで、治療する際の手がかりにしていたと考えられています。現代医療のなかで、このような古典的な診断方法だけで全ての診療を行うのは無理がありますが、西洋医学の診断では全体をとらえることができない冷え症などの疾患では、有効な手段となりえます。
 冷え症は東洋医学ならではの病気としましたが、現代社会ではむしろ冷えは増加していると思われます。運動不足に加えて現代社会は冷やす社会ともいえ、夏場のクーラー、冷蔵庫の冷たい食品、本来は夏だけに食べていた食品を冬場にも食べるようになった(トマトなど)などが、原因に挙げられます(図3)。さらに、急速に進行する高齢化社会を反映し、冷えはますます増加していくことが予想されます。

  • 図1 体組成計
    短時間に極めて精度の高い計測ができます
  • 図2 「気・血・水」の概念

図3「冷え症」を増やす要因

さまざまなタイプの冷え症

 大きく分けて3つのタイプが考えられます。患者さんの症状を詳しくみると、それぞれに冷え症状以外の症状が一緒にある場合がほとんどです(図4)。
①末梢冷えタイプ
 手足の冷えが中心で、このような症状を漢方では「四逆(しぎゃく)」といいます。末梢(まっしょう)の循環不全ですので、普段の対策としては運動が第一です。「当帰四逆加呉茉英生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」という長い名前の薬剤がしばしば使われます。「四逆散」という薬剤もありますが、ストレスが原因の冷え症状に使用します。高脂血症に使われる西洋薬のEPAは魚の脂から作られた薬ですが、末梢循環の改善効果があります。
②お(なか)冷えタイプ
 胃腸の弱い人や下痢をしやすい人はこのタイプです。日常生活では、冷たいものの食べ過ぎに注意が必要です。漢方では、胃腸の調子を整えるような薬剤を使用します。高齢者のサルコペニアにおける冷え症状では、食欲を上げて元気にする補剤と呼ばれる一連の漢方薬を使用します。
③冷えのぼせタイプ
 下半身は冷えるが、上半身はほてるように熱くなります。更年期障害で見られる症状が典型的なものです。ストレスや精神的な落ち込みが原因となっていることが多いと考えられます。漢方では、めぐりをよくする薬剤が選択されます。

図4 冷えの3タイプ

注意が必要な冷え症状とは?

 足が冷えて、歩くと痛みが出て歩けなくなる場合は要注意です。閉塞性動脈硬化症(へいそくせいどうみゃくこうかしょう)といって、動脈硬化が原因で血管が狭くなって、血流障害を起こしている場合に起こります。高齢者、喫煙者、糖尿病のある人は要注意です。脈波伝播速度(みゃくはでんぱそくど)といって、血圧測定を利用した機械で血流を測定することで、ある程度の診断が可能です。このような場合は、漢方治療ではなく西洋医学的な治療(血管を広げる薬剤や外科的な血管再建など)が必要です(図5)。
 睡眠が十分とれていない場合や、気分の落ち込みがひどい場合にも、全身の冷え症状を訴える場合があります。このような場合に、うつ病が原因となっている場合があります。うつ病も軽症であれば漢方での対応も可能ですが、メンタルヘルス専門医の受診をお勧めします。

図5 脈波伝播速度測定両手両足の血圧の測定と心電図を付けて計測します。測定時間は5分ほどで終了します

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