発声機能温存のための方策
以前は、早期発見が難しくリンパ節に転移した進行がんと診断される症例が多くみられましたが、NBI内視鏡の普及(画像1)や、食道がんをはじめ上部消化管がんの患者さんへの重複がんスクリーニングの徹底で、早期発見のケースが増えています。
人間の「のど」は、咽頭と
ステージ3、4の進行下咽頭がんの標準治療は、手術を行い、術後病理結果をみて、(化学)放射線療法を行うか検討します。しかし、国内外ともに、いまだ標準治療が確立されているとは言い難く、施設間の違いがあるのが現状です。そこで、私たちは毎週、頭頸部がんカンファレンスを行って患者さんの治療方針を検討しています。
医療の世界は日進月歩、医療技術はどんどん進歩しています。今日の常識が本当に明日の常識なのか、日々考える必要があります。耳鼻咽喉科医(手術)、放射線科医(放射線治療)、
まず
また、食道がんに代表される上部消化管領域のがんの合併率が約30%と重複がんの合併が高率であるため、治療前の上部消化管内視鏡検査が必須となっています。
画像3
a.
b.内視鏡下に粘膜を切除しているところ
c.切除後
d.摘出標本。肉眼的、病理学的にもmargin(切除断端)陰性で、追加治療は行いませんでした
①遊離空腸による再建手術
進行下咽頭がんの手術では、下咽頭や場合により頸部食道の全周切除が必要です。このため上部消化管外科、形成外科と合同で
②経口的下咽頭がん切除
近年、NBI内視鏡の普及によって咽頭の表在がんの発見率が増加しています。消化器内科医と合同で、全身麻酔下で
③下咽頭部分切除
腫瘍が下咽頭に限局しているT1、T2病変では、下咽頭を部分切除する方法があります。しかし初期治療例では(化学)放射線治療の方法もあり、QOLを考慮すると後者の選択が標準的といえます。そこで放射線治療後に再発した場合がベストな適応といえます。切除範囲が小さい場合は、そのまま縫い縮めることができますが、比較的大きい場合には前腕皮弁や空腸パッチによる再建が必要となります。一時的に気管切開が必要ですが、後日、閉鎖して発声が可能になります。
④化学放射線療法(CRT)
シスプラチン(CDDP)に代表される抗がん剤との併用による化学放射線治療は、手術加療の治療成績に近づいてきています。しかし音声機能が温存できたとしても、①]気管切開孔](きかんせっかいこう)が閉鎖できない②嚥下機能の低下が著しい③
そこで当院は、前述のようにカンファレンスで治療方針を検討し、病気の進行度だけでなく、患者さんの社会的背景、年齢、全身状態などを総合的に判断して、治療方針を検討しています。当院は日本臨床腫瘍グループ(JCOG)の参加施設で、専任の腫瘍内科医が科学的根拠に基づいた抗がん剤治療を行っています。
下咽頭がんを含め年間約100例の頭頸部がんの手術を行っています。下咽頭がんにおいて2013年は9例の拡大切除(うち7例が遊離空腸再建)、20例の化学放射線療法を行いました。2000年からの9年間に先行頸部郭清後、化学放射線療法を行った下咽頭がん48例の5年疾患特異的生存率(下咽頭がんによって死亡していない人の割合)は60%、5年喉頭温存率(声帯が残せる人の割合)は70%でした。