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下咽頭がんの治療

発声機能温存のための方策

下咽頭がんとは?

 頭頸部(とうけいぶ)がんの発生頻度は、全てのがんの約5%を占めています。このうち下咽頭がんは約1割を占めるといわれています。男性は女性の4~5倍の頻度で発生し、年齢は50~60歳代に多く発病するといわれていますが、高齢化に伴い70歳代や80歳代の患者さんにもしばしばみられます。喫煙、飲酒は発がんとの因果関係が強いといわれ、ヘビースモカーで大酒家は下咽頭がんの「高危険群」と考えられています。
 以前は、早期発見が難しくリンパ節に転移した進行がんと診断される症例が多くみられましたが、NBI内視鏡の普及(画像1)や、食道がんをはじめ上部消化管がんの患者さんへの重複がんスクリーニングの徹底で、早期発見のケースが増えています。
 人間の「のど」は、咽頭と喉頭(こうとう)からできています。このうち咽頭は鼻の奥から食道までの食べ物と空気の通り道で、上・中・下咽頭に分かれています。下咽頭の下方は食道と、前方は喉頭とつながっており、食べた物はこの中を通過して食道へ送られます(図)。このように発声や嚥下(えんげ)に密接に関与している部位であることから、治療成績だけでなく治療後の機能温存も考慮した治療計画を立てる必要があります。
 ステージ3、4の進行下咽頭がんの標準治療は、手術を行い、術後病理結果をみて、(化学)放射線療法を行うか検討します。しかし、国内外ともに、いまだ標準治療が確立されているとは言い難く、施設間の違いがあるのが現状です。そこで、私たちは毎週、頭頸部がんカンファレンスを行って患者さんの治療方針を検討しています。
 医療の世界は日進月歩、医療技術はどんどん進歩しています。今日の常識が本当に明日の常識なのか、日々考える必要があります。耳鼻咽喉科医(手術)、放射線科医(放射線治療)、腫瘍(しゅよう)内科医(抗がん剤治療)のスペシャリストが集結して行うカンファレンスは、同一施設内で個々の患者さんに、最適な治療を行うテーラーメード治療だと自負しており、私たちの検討では、医療にかかる費用の軽減、QOL(Quality(クオリティ) of(オブ) Life(ライフ):生活の質)および治療成績の向上を認めました。

  • 図 のどの仕組み
  • 画像1)拡大NBI内視鏡にて表面血管の拡張がみられます
    生検の結果、上皮内がんでした
    画像2)咽喉頭頸部食道摘出後、遊離空腸で再建
    a.遊離空腸で再建
    b.術後6か月の内腔写真。粥食が摂取可能となりました

診断と検査内容

 まず経鼻内視鏡検査(けいびばいしきょうけんさ)による観察、腫瘍の生検(組織採取)を行います。下咽頭は構造上観察しづらい部位ですが、バルサルバ法やキリアン法(座位にて前屈みになる)を使って、慎重に観察を行います。近年、NBI内視鏡で表在(ひょうざい)がんも分かるようになってきました。頸部超音波検査も同時に行い、頸部リンパ節転移の有無、部位、大きさ、個数などを評価します。原発巣(げんぱつそう)の広がり、頸部リンパ節転移、遠隔転移の評価のために造影CT、MRI、PETを施行し、進行度を精査の上、治療方針を検討しています。
 また、食道がんに代表される上部消化管領域のがんの合併率が約30%と重複がんの合併が高率であるため、治療前の上部消化管内視鏡検査が必須となっています。

画像3
a.左梨状窩(りじょうか)にルゴール染色の不染領域を認めます
b.内視鏡下に粘膜を切除しているところ
c.切除後
d.摘出標本。肉眼的、病理学的にもmargin(切除断端)陰性で、追加治療は行いませんでした

治療方針と手術方法、予後

①遊離空腸による再建手術
 進行下咽頭がんの手術では、下咽頭や場合により頸部食道の全周切除が必要です。このため上部消化管外科、形成外科と合同で遊離空腸(ゆうりくうちょう)による咽頭再建を行っています(画像2)。空腸再建での問題は吻合血管(ふんごうけっかん)のトラブルですが、2010年から4年間に行った25例では、空腸壊死(くうちょうえし)例は1例もありませんでした。下咽頭がんは頸部リンパ節転移の頻度が高く、原発巣の拡大切除を行う症例の多くで、両側の頸部リンパ節の切除(両側頸部郭清(けいぶかくせい))を行います。
②経口的下咽頭がん切除
 近年、NBI内視鏡の普及によって咽頭の表在がんの発見率が増加しています。消化器内科医と合同で、全身麻酔下で彎曲(わんきょく)型喉頭鏡を使って経口的内視鏡下切除を行っています(画像3)。3泊4日程度の入院が必要となり、この方法を使えば、下咽頭表在がん以外にもT1、T2病変(早期の浸潤がん)にも適応になると考えます。ちなみに今回の症例では、舌がんの術後照射が行われており、一般的には喉頭の摘出が必要でした。しかし彎曲型喉頭鏡を駆使して、十分な下咽頭、頸部食道の視野を確保し、内視鏡を使ってはっきり見える状態を確保した上での内視鏡的粘膜下層剥離術(はくりじゅつ)(ESD)を行いました。
③下咽頭部分切除
 腫瘍が下咽頭に限局しているT1、T2病変では、下咽頭を部分切除する方法があります。しかし初期治療例では(化学)放射線治療の方法もあり、QOLを考慮すると後者の選択が標準的といえます。そこで放射線治療後に再発した場合がベストな適応といえます。切除範囲が小さい場合は、そのまま縫い縮めることができますが、比較的大きい場合には前腕皮弁や空腸パッチによる再建が必要となります。一時的に気管切開が必要ですが、後日、閉鎖して発声が可能になります。
④化学放射線療法(CRT)
 シスプラチン(CDDP)に代表される抗がん剤との併用による化学放射線治療は、手術加療の治療成績に近づいてきています。しかし音声機能が温存できたとしても、①]気管切開孔](きかんせっかいこう)が閉鎖できない②嚥下機能の低下が著しい③再発時(さいはつじ)の救済手術が困難であるなど解決すべき問題も多くあります。
 そこで当院は、前述のようにカンファレンスで治療方針を検討し、病気の進行度だけでなく、患者さんの社会的背景、年齢、全身状態などを総合的に判断して、治療方針を検討しています。当院は日本臨床腫瘍グループ(JCOG)の参加施設で、専任の腫瘍内科医が科学的根拠に基づいた抗がん剤治療を行っています。

診療実績

 下咽頭がんを含め年間約100例の頭頸部がんの手術を行っています。下咽頭がんにおいて2013年は9例の拡大切除(うち7例が遊離空腸再建)、20例の化学放射線療法を行いました。2000年からの9年間に先行頸部郭清後、化学放射線療法を行った下咽頭がん48例の5年疾患特異的生存率(下咽頭がんによって死亡していない人の割合)は60%、5年喉頭温存率(声帯が残せる人の割合)は70%でした。

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