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肝がんの内科的治療

治療の完治と新たな標準治療の確立

肝がんとは?

 肝臓は右上腹部で横隔膜(おうかくまく)の下にあり(図1)、重量が800~1500g(成人)と体内で最も重い臓器です。その主な役割として、腸で吸収されたさまざまな栄養素を代謝、貯蔵するほか、胆汁(たんじる)生成(せいせい)や分泌、および解毒や排泄(はいせつ)などのように生命の維持に必要な多くの働きを行っています。
 肝がんとは肝臓に発生した悪性腫瘍(あくせいしゅよう)で、日本のがん統計によれば肝がんでの死者数は男性が第4位、女性が第6位となっています。肝がんの原因として、C型肝炎、B型肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝などの慢性の肝臓病が挙げられます。特にC型およびB型肝炎が全体の約80%を占めていますが、最近はC型やB型肝炎を合併していない肝がんが増えています。また、肝がんの発がん率について慢性肝炎では年率1~3%に対して、肝硬変では年率6~8%と高くなっています。
 がんの進行度に応じたステージ分類があります。肝がんでは単発で病変の大きさが2cm以下がステージⅠ期、複数個もしくは大きさが2cm超の場合ではステージⅡ期、複数個でかつ2cm超ではステージⅢ期、さらに血管へのがん浸潤が加わるとステージⅣa期、遠隔転移(えんかくてんい)があればステージⅣb期となります。

  • 図1 胸腹部の解剖
  • 図2 治療アルゴリズム
    (科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン 2013 年度版から)

初期は自覚症状がほとんどない

 肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるように、肝臓病の初期では自覚症状がほとんどありません。しかし、肝臓が硬くなるにつれ肝臓の働き(肝機能)が徐々に悪くなり、肝硬変の症状が出始めます。症状としては、食欲不振、倦怠感(けんたいかん)、腹水、便秘・下痢などの便通異常、黄疸(おうだん)、貧血、こむら返り、浮腫(ふしゅ)、皮下出血などがあります。
 超音波検査で肝臓に「しこり」が発見されると、造影CTもしくはMRIを撮像(さつぞう)することになります。造影パターンが典型的であれば生検(がん組織を採取して病理医が顕微鏡診断)を行わずに、画像検査だけで確定診断します(画像)。

画像 肝がんの典型例
a.超音波(Bモード)で低エコー結節(けっせつ)を認めます
b.動脈相における造影超音波像。豊富な腫瘍内血流を反映して、早期濃染を認めます
c.クッパ−相における造影超音波画像。腫瘍部が欠損像として描出されました
d.造影CTの動脈相。腫瘍の濃染像を認めます
e.造影CTの平衡相。腫瘍部は周囲肝実質と比べて低吸収を認めます。この症例に対してはラジオ波治療を行いました

治療法は、がんのステージと肝機能バランスで決定

 肝がんに対する治療法は、がんのステージと肝機能(肝障害度)のバランスによって決定します(図2「治療とアルゴリズム」参照)。
 ラジオ波焼灼術(しょうしゃくじゅつ)穿刺(せんし)局所療法の1つです。具体的には、超音波検査で観察しながら肝がん病巣に細い治療電極針を刺して、先端から電磁波を発生させることでがんを熱によって凝固壊死(ぎょうこえし)させる治療法です。比較的小さく、個数も少ない場合(3cm以下、3個以下)は、外科手術に匹敵する治療効果があるとされています。特に2cm以下の小型の肝がんだと、小さな負担で根治できます。
 肝動脈塞栓療法(そくせんりょうほう)はカテーテル治療の1つです。足の付け根の動脈(大腿動脈(だいたいどうみゃく))に挿入したカテーテルは動脈内部を伝って肝臓内部まで先端を進めることができ、がんを栄養する血管を通して抗がん剤や塞栓物質を注入する治療法です。
 肝動注化学療法もカテーテル治療の1つですが、皮下に埋め込み型カテーテル・ポートシステムを留置することで持続的に抗がん剤を注入できる治療法です。
 分子標的治療薬は最近、登場してきた新しい化学療法の1つです。肝がんではsorafenib(ソラフェニブ)(ネクサバール®)、regorafenib(レゴラフェニブ)(スチバーガ®)、lenvatinib(レンバチニブ)(レンビマ®)、ramucirumab(ラムシルマブ)(サイラムザ®)が薬剤として使われ、抗腫瘍効果はがん細胞への直接的な作用とがん病巣の血管増生を阻害する作用の両方によるものと考えられています。

診療実績

 当院のラジオ波焼灼術の成績は、5年生存率(5年後に患者さんが生存している確率)が79%(図3)、局所再発率が4.9%です。また、肝動脈塞栓療法の根治(CR)率は71.4%でした。また、多くの臨床試験(SELECTED、SILIUS、TACTICSなど)を計画、実施することで、肝がん治療の根治と延命への新たな標準治療の確立をめざしています。

図3 当科における肝がんのラジオ波焼灼術の累積生存率

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