常に、その時の最善を尽くす
5cmを超える
このような乳がんでは、手術で病巣を取り除くことが困難だったり、取り除いた場合でも高い確率で局所再発したり、遠隔転移(乳房やリンパ節以外の臓器、例えば骨・肺・肝臓などに転移すること)を起こすことがあります。
このような場合は、既に目に見えない小さながん細胞が全身に広がっており、治療成績の向上のために適切な薬物療法が必須とされています。また、乳がんは薬物療法がよく効くため、病巣が縮小し、より確実に手術が行えるようになることが多いのです。
画像 症例のCT画像
右胸部全域に巨大な腫瘍を認め(→)、肋間筋への浸潤の可能性も示唆されています
局所進行乳がんに限らず、乳がんに対する薬物療法を決定する際には、その乳がんのサブタイプを調べることが重要です。乳がんは遺伝子の発現パターンが数種類あり、それによって性格が違います。
これを乳がんのサブタイプと呼び、実際には2種類のホルモン受容体(ER、PgR)とHER2タンパクおよびKi67というタンパク質を乳がん細胞が持っているかどうかを調べて決定します。サブタイプの分類とそれに対する治療を「表」に示します。
この患者さんは
表 乳がんのサブタイプとその治療
乳がんに対する術前化学療法は多くの場合は有効で、治療中に増大してくる可能性は高くはありません。一方、強力な化学療法を行っても効果がなかった場合の、その後の治療は十分な検討が必要です。今回のように治療開始時点で切除が困難な場合は大変です。
このような場合は①薬剤の種類を変えて薬物療法を継続する②放射線治療で局所を縮小させる③何とか切除できる方法を考える――という3つの方法があり、外科、腫瘍内科、胸部外科、形成外科医が合同で治療方針を検討しました。
まず、薬剤を変更するという方法です。既に乳がん治療として重要な2種の薬剤を使用して効果が見られなかったため、今後、ほかの薬剤を使っても確実に腫瘍が縮小する可能性は少ないだろうと考えました。
また、腫瘍からの
腫瘍が胸壁(
しかし、全ての患者さんにガイドライン通りの治療が適用できるとは限りません。一般的でない病態については、個別にベストの治療が追求されるべきであり、その治療が成功するように最善を尽くすことが大切です。患者さん、家族と十分な話し合いの上で、切除に踏み切りました。幸いなことに肋骨にも肋間筋にも浸潤はなく、大きな手術にはなりましたが、腫瘍は切除ができ、皮膚の欠損部は形成外科によって背中の筋肉と大腿部の皮膚を移植することで、その後の経過は順調でした。
「諦めの手術はしない」という私たちの教室のモットーがあります。手術だけで完治が得られるわけではありませんが、常にその時の最善を尽くすべく、チーム医療で治療に臨んでいます。