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悪性胸膜中皮腫の治療

抗がん剤の併用療法で延命効果

悪性胸膜中皮腫とは

 アスベスト(石綿:せきめん)曝露と関係の深い悪性中皮腫は世界的に急増する傾向にあり、わが国でも大きな社会問題となっています。肺、心臓、胃腸・肝臓などの表面は、それぞれ胸膜、心膜、腹膜という膜で覆われています。これらの膜の表面には「中皮細胞」が一列に並んでいます。この中皮細胞が悪性化したものが「悪性中皮腫」という病気で、胸膜由来の悪性胸膜中皮腫が最も多くみられます。胸膜は肺の表面を覆う臓側胸膜と、胸壁を覆う壁側胸膜とに分けられ、これら二枚の胸膜で囲まれた空間を胸腔といいます。壁側胸膜から発生した悪性胸膜中皮腫は、通常、胸水を伴って胸腔全体に拡がり、次第に周囲の組織や臓器に浸潤していきます(図1)。また、リンパや血液の流れに乗って、リンパ節や他の臓器に転移することもあります。

図1 悪性胸膜中皮腫の発生と拡がり
腫瘍は、壁側胸膜に初発し(T1a)、胸水を伴って臓側胸膜へと拡がり(T1b)、やがて全胸膜が腫瘍に置き換わります(T2)。

診断と検査内容

 胸痛、息切れ、咳などの症状がみられますが、何れも特異的な症状ではないため、早期発見は困難です。胸部単純X線写真やCT検査 (コンピューター断層撮影)の所見としては、胸膜の全周性肥厚や腫瘤形成、胸水貯留などがあげられます(図2)。最終的には、胸腔鏡という内視鏡を胸腔内に挿入して、肥厚した胸膜や腫瘤から組織を採取することによって、病理組織学的に診断を確定します(図3)。最近、可溶性メソテリン関連ペプチドが血液腫瘍マーカーとして承認され、診断に役立てることができるようになりました。

  • 図2 診断時(左)と化学療法後(右)の胸部CT画像
    診断時、右胸膜腫瘍と胸水貯留を認めました(左)。化学療法終了後、腫瘍の著明な縮小と胸水の消失を認めました(右)。
  • 図3 胸腔鏡所見
    胸膜は不整に肥厚し、顆粒状の腫瘤を多数認めました。

治療

 悪性胸膜中皮腫の治療法には、(1) 手術療法、(2) 化学療法、(3) 放射線療法があります。腫瘍があまり拡がっていない場合は、手術療法によって腫瘍を切除します。手術には、ふたつの方法があります。ひとつは、片側の肺の全て、壁側胸膜、横隔膜などを一塊として取り除く胸膜肺全摘除術です。この方法は侵襲(体に対する負担)が大きく合併症の発症も予測されるため、臓器機能が充分保たれていて、片肺でも生活できる患者さんに行います。もうひとつは、肺を残して胸膜を剥ぎ取る胸膜切除/肺剥皮術です。手術前に抗がん剤による化学療法を行うことや、手術後に放射線療法を追加することもあります。腫瘍が手術によって切除しきれないと判断された場合は、抗がん剤による化学療法が選択されます。化学療法は抗がん剤が血液の流れに乗って全身をめぐることによって、全身に拡がったがん細胞を攻撃できる利点があります。化学療法だけで悪性胸膜中皮腫を治癒に導くことはできませんが、腫瘍の進行を抑え、症状を和らげるなどの効果が期待できます。また、早期の段階では、手術や放射線療法と組み合わせることによって、治癒率を高めることが示されています。シスプラチンとペメトレキセドという抗がん剤の組み合わせによる化学療法は、大規模な臨床試験によって悪性胸膜中皮腫に対する延命効果が証明されています。さらに、腫瘍縮小だけではなく、痛みや息切れ、咳、疲労感などの症状を和らげる効果も確認されました。ペメトレキセドとシスプラチンの併用療法は、これらふたつの抗がん剤を1回投与した後、約20日間休薬します。この投与と休薬期間を併せて1コースとして、効果があって副作用が許容範囲内であれば4から6コースを繰り返します。葉酸とビタミンB12は、ペメトレキセドの副作用を抑える効果があるため、補給が必要となります。ペメトレキセドとシスプラチンの併用療法がよく効いた患者さんでは、腫瘍の著明な縮小と胸水の消失を認めます(図2)。また、抗がん剤による化学療法後に増悪した症例に対しては、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブの有効性が確認されたことから、現在、再発例に対しては、本薬剤の投与が推奨されています。放射線療法は、手術後の再発を予防したり、腫瘍による痛みを軽減する目的で行われます。進行期の患者さんで全身状態が悪い場合は、生活の質を維持するために苦痛となっている症状を和らげる緩和医療を優先することもあります。なお、わが国では、悪性中皮腫の患者さんに対するふたつの補償・救済制度(労働災害補償と石綿健康被害救済制度)があります。

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