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月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)

西洋医学に漢方を取り入れた治療に取り組む大学病院の専門医療機関

「生理の前にイライラや無気力がひどいのですが」

 生理の前だけに症状があらわれて、生理が始まると症状が軽くなり気にならなくなるようであれば、月経前症候群(premenstrual syndrome: PMS)の可能性が高いです。精神的症状が中心でより症状が重い場合は、月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder: PMDD)となります。我が国において、PMSやPMDDは一般社会だけでなく、医療サイドでの認知も不十分です。
 月経が始まってから(初経後)だいたい2年、中学3年生くらいで症状を自覚することが多く、思春期においても学校や社会生活において、大きな障害となる場合もあります。高校生を対象とした調査では、14.4%で社会生活に障害がでるようなPMS症状が認められ、月に1日以上欠席する者は11.9%で、思春期から社会生活に大きな障害となっていることが明らかとなっています。成人においても同様で、就労女性を対象とした調査では、課長職以上の昇進にあたりPMSが原因で辞退しようと悩んだり、辞退したことがある者の割合は、それぞれ18%・37%という報告もあり、女性の社会進出においても大きな問題となっていることがわかります。

「どのような症状がおこるのでしょうか?」

日本の成人でよくみられる症状を示します(図1)。
米国産婦人科学会のPMS診断基準における症状を示します(図2)。細かいものを合わせると150種類以上の症状があるといわれています。

  • 図1 (T. Takeda. et al., Arch Womens Ment Health, 2006)
  • 図2 PMSの主な症状(産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2023より引用)

「どうしておこるのでしょうか?」

 女性ホルモンの分泌が悪いのではないかと心配されるかたもおられますが、むしろホルモンは正常でちゃんと排卵している(卵巣から卵がでる)場合に起こります。はっきりとした原因はまだわかっていません。そのため、血液検査や画像検査で診断できるわけではなくて、上記のような症状による診断が必要となります。ただ、セロトニンやGABAなど、脳の神経に働く「神経伝達物質」に異常が生じて起こるのではないかと考えられています。また、薬剤により排卵を止めると症状がおさまるので、排卵後に分泌が増える「黄体ホルモン」が悪さをしている可能性が考えられています。

「最初はどうすればよいのでしょうか?」

 今の症状がPMS症状であるかをスクリーニングするための問診票(PSQ)を本項の最後に載せましたので参考にしてください(妥当性・信頼性も検証されています)。症状の強さで「3」や「4」のある方は、かなり症状が強いと思われます。まずは生活習慣の見直しや食事指導、運動習慣による改善を目指します。生活習慣としては、規則正しい生活リズムを心掛け、夜更かしをさけ、睡眠をしっかりとるようにします。食事では、精製糖質(いわゆる砂糖)をさけ、牛肉といった赤色の肉よりは鶏肉や魚を摂取し、緑黄色野菜などによる食物線維摂取を心掛けます。一般的には、伝統的な日本食(和食)をイメージするのがいいかと思います。コーヒーなどのカフェイン摂取は、これまでよくないと考えられてきましたが、最近のデータでは否定的です。過量摂取は興奮作用の可能性がありますので避けるほうがいいと思いますが、適量であれば問題にはならないと思います。可能であれば、重症度を認識するためにも、簡単で構いませんので日々の症状を記録するのも重要です。周期のなかのどのタイミングで症状がでるかが自分で分かるようになり、大事な用事をいれない等の対応ができ、症状の緩和効果が期待できます。

「栄養面からの治療は?」

 様々ことが言われていますが、ある程度の効果の裏付けのあるは、精神安定作用のあるカルシウム、セロトニンを作るときに必要なビタミンB6やマグネシウムです。これらのサプリメントを使用してみてもいいです。食品ですと、バナナは食物繊維が多いのとビタミンB6が多く含まれており、おやつに食べるのがよいかもしれません。

「薬物治療は?」

 症状が軽い場合は、鎮痛剤や精神安定剤など症状を抑える治療(対症療法)を行っていきます。日常生活に支障が出るほど症状が重い場合は、低用量ピルやセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という抗うつ薬を使用することもあります。低用量ピルは排卵を抑える経口避妊薬でもありますので、お子さんを作りたい場合には使用できません。また、SSRIに関しては未成年者での自殺リスクが増加する可能性が報告されていることから注意が必要で、思春期ではファーストチョイスではありません。漢方薬は副作用も少ないですし、使用できる処方の種類も多く、また軽い症状からある程度重い症状でも対応できるので便利です。

「症状がきつい場合はどこへ相談すればいいのでしょうか?」

 低用量ピルや漢方薬を使用する場合が多いですから、最初は婦人科への受診がよいかと思います。精神症状がきつくて、他の精神疾患が考えられる場合には精神科への紹介が必要となる場合もあります。近畿大学病院漢方診療科、東洋医学研究所では、本格的な漢方診療だけでなく、低用量ピル・SSRIさらには鍼灸治療も含めて総合的な治療が可能です。また、新規治療法開発の臨床試験や治験も適宜実施しています。
以下のサイトも参考にしてください。
生理周期が安定しているほうがなりやすい? 専門医に聞くPMSの原因と改善方法 | Kindai Picks
QOLが著しく低下する月経前不快気分障害(PMDD)の症状と治療 | メディカルノート (medicalnote.jp)
女性の体や心の不調 それってPMS(月経前症候群)かも? 産婦人科医 武田 卓先生|達人コラム|花王 くらしの研究 (kao.co.jp)

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