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肺血栓塞栓症の治療

症状に応じて4つの治療法を選択

肺血栓塞栓症とは?

 肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)とは、肺の血管(肺動脈)に血の固まり(血栓)が詰まって、突然の呼吸困難や胸痛、失神発作、時には心停止をきたす危険な病気で、急性心筋梗塞(きゅうせいしんきんこうそく)大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)/大動脈解離と並んで、循環器の3大救急疾患の1つといわれています(図1)。この病気は、飛行機で長時間旅行した後、飛行機を降りて歩き始めたとたん、急に呼吸困難やショックを起こし、時には亡くなることもある「エコノミークラス症候群」と呼ばれる病気としてよく知られ、長期入院中の患者さんや手術後、妊産婦さんにも発症します。
 肺血栓塞栓症の原因は、太ももやふくらはぎの筋肉内にある静脈(下肢深部静脈)に血栓ができ、何らかの拍子に足の血栓がはがれて肺に到達し発症します。そのため「深部静脈血栓症」と「急性肺血栓塞栓症」は、1つの病気の異なった2つの側面を見ているだけで、最近はまとめて「静脈血栓塞栓症」と呼ぶことも多くなっています(図2)。
 肺血栓塞栓症の発症数は、ここ10年間に2.25倍に増加し、人口100万人当たりに換算すると62人程度と推定され、日本人では男性より女性に多く、60歳代から70歳代にピークがあります。

  • 図1 急性肺血栓塞栓症
  • 図2 静脈血栓塞栓症

急性肺血栓塞栓症(静脈血栓塞栓症)の原因は?

 静脈の中に血栓ができ、これが肺へ飛んで急性肺血栓塞栓症になる原因として、以下の3つが関係しているといわれています。
①静脈の壁が傷ついた場合
 カテーテル検査・手術などで、血管の中に点滴や輸血をするための管を長期間入れておく必要があった場合などに、血栓ができやすくなります。
②静脈の流れがよどんでいる場合
 足の筋肉は「第二のポンプ」といわれ、筋肉が動くことで足の静脈の血の流れが良くなります。脳卒中後の麻痺(まひ)で足が動かなくなったり、エコノミークラス症候群のように、長時間いすに座って足を動かさない場合、妊婦や子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)のある方などは腹部の大きな静脈が圧迫され、血の流れが悪くなった場合などに深部静脈血栓症の危険性が高くなります。
③血液が固まりやすい患者さん
 血液が普通の人と比較して固まりやすい体質の人がいます。アンチトロンビン欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症、抗リン脂質抗体症候群という病気があり、血液検査で調べることができます。ほかには悪性腫瘍(あくせいしゅよう)(がん)を患っている患者さんも、血液が固まりやすい状態になっている場合のあることが分かっています。

肺血栓塞栓症の診断

 急に呼吸困難が起きて、この病気を疑った場合は、造影剤を点滴しながら、CT検査(断層撮影)を行うことで肺動脈に血栓のあることを確認できます(画像1)。
 また、血液検査で、ディーダイマー(D-Dimer)という血栓を溶かす(線溶)物質が血液の中に多く現れることが分かってきました。血液検査の値が高い場合、この病気の存在を疑います。

画像1 造影CT検査での肺動脈内血栓

4つの治療法

①抗凝固療法
 肺動脈内の血栓が比較的少なく、血圧、呼吸状態が落ち着いている場合はヘパリンという薬の点滴を行い、その後、ワルファリンという口から飲む薬に切り替えます。ヘパリンもワルファリンも血液を固まりにくくする作用を持っています。
②血栓溶解療法
 肺動脈内の血栓が多くショック状態の場合は、詰まった血栓をなるべく早く溶かす必要があり、組織プラスミノーゲン・アクチベーター(t-PA)という強力な血栓溶解薬を使用します。
③カテーテル治療、肺動脈血栓摘除術
 心臓が停止した状態や、症状が極めて重い場合には、直接、血栓を取り除く治療が必要です。
 心臓血管外科で肺動脈血栓摘除術という緊急手術を行ったり、経皮的心肺補助循環装置(PCPS)を装着しながらカテーテルを肺の血管の中まで挿入して、詰まっている血栓を細かく壊したり吸引したりして取り除く治療をすることがあります。
④下大静脈フィルター
 下肢にまだ血栓が残っており、肺に飛びそうな場合、腹部の静脈に傘の骨のような金属のフィルターを入れて、仮に血栓が飛んでもフィルターで捕捉され、肺に飛ばないようにすることもあります(画像2)。

画像2 下大静脈フィルター

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