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胃がんの薬物療法

最近数年で確実に進歩した抗がん剤治療

胃がんとは?

 日本人がかかるがんは、男性は胃がんが最も多く女性でも3番目に多いとされています。このように頻度の高いがんですが、胃がんの初期は無症状のことも多く、症状がないからと安心していては手遅れになってしまいかねません。もちろん胃痛、胃もたれ、げっぷ、食欲不振、体重減少などの症状で発見されることもありますが、健康診断などでたまたま受けた血液検査やエコーなどで偶然発見されることも少なくありません。
 また胃がんによる胃痛が起こっても胃薬を服用すると簡単に治まることも多く、安易に胃薬を服用することでせっかくの早期発見のチャンスを逃すこともあります。このため、少しでも症状があれば胃の内視鏡検査を早めに受けておくことが大切です。
 また、胃がんのほとんどはピロリ菌という細菌の胃への感染で発生することが分かっています。胃内視鏡や血液検査などでピロリ菌に感染していることが分かれば、すぐに退治する薬を服用することをお勧めします。飲み薬を1週間服用するだけでピロリ菌は駆除でき、胃がんの大部分を予防できます。

胃癌の診断と治療方針

 不幸にして胃癌になってしまっても、胃癌の治療は大きく進歩しています。
 胃癌はその進行を表す病期(胃癌取扱い規約)によって、I期からIV期までに分類され(表1)、治療法は病期によって異なりますが、大きく手術療法と抗癌剤を主とした化学療法が胃癌治療の軸となります。
 手術は癌が一定範囲に収まっていると考えられる病期(すなわちI〜III期)で行われます。内視鏡によるものから、腹腔鏡やロボットを用いたもの、開腹手術まで幅があり、やはりこれも癌の存在する範囲によって方法に違いがあります。ただ、いずれにしても、癌(およびその周辺)をきれいに取り除き、体の中の癌細胞を0にする、すなわり「根治」を目指す、というのが治療の目標になります。根治を目指すためには、例えばII/ III期といった胃癌では術後により根治率を高める「術後補助化学療法」を行うのが標準的です。
 一方、遠隔転移があるIV期もしくは切除不能な再発に対しては抗癌剤を主とした全身の化学療法が選択されます。これは手術で取り切れる範囲を超えて癌が存在するため、「目に見える癌」以外に「目に見えない癌」についても治療をする必要があるからです。ただし、現在のところ、化学療法で根治を目指すことは難しく、治療の目標は癌を可能な限りコントロールし、それによって生命を奪われる事態をできる限り先送りにする、元気で長生きを目指す「延命」になります。

表1 胃癌取扱い規約による病期分類とその治療方針。
Tは胃癌の胃壁における根の深さ(Tの後の数字が大きいほど深い)、Nは転移しているリンパ節の個数、M1は肝臓や肺、腹膜などへの遠隔転移があることを表している。表中に病期ごとの治療方針を記載。化学療法は抗癌剤治療のことです。

胃癌の薬物療法

 ここ数年で胃癌に対して使用可能となった薬剤の数は急速に増加しています。それは、胃癌と戦う術が以前と比べて増えたことを意味し、結果的に癌をコントロールし患者さんがお元気で過ごせる時間が長くなるということにつながります。こうした薬剤の治療開発において、近畿大学腫瘍内科は重要な役割を果たしています。
 現在胃癌の薬物療法はほとんど全てを外来で行うことができ、治療を続けながらこれまで通りの生活をできる限り長く送っていただくことを目指しています。薬物療法の主体は抗癌剤です。抗癌剤には5-FU系(5-FU、S-1、カペシタビン)、プラチナ系(シスプラチン、オキサリプラチン)、タキサン系(パクリタキセル、nab-パクリタキセル、ドセタキセル)、イリノテカンがあり、それぞれどの組み合わせをどの順番で用いるかが決められています。2019年には新たにトリフルリジン・チピラシル塩酸塩が登場しました。
一方、抗癌剤と組み合わせることでその効果を高めることが期待される分子標的薬としてラムシルマブという薬剤があります。さらに免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ)も胃癌では3次治療として使用可能です。
 胃癌においても他の癌の治療でも見られるように、胃癌においても癌が持っている特徴に従った治療が行われます。最も重要なのは「HER2(ハーツー)」というタンパク質です。胃癌患者さんの15〜20%ほどにこのタンパク質の過剰発現が腫瘍上に認められます。HER2陽性の癌に対しては、通常の化学療法にHER2を標的とした薬剤(トラスツズマブ)を上乗せすることで、よりよい治療効果が得られることがわかっています。HER2を標的とした治療は新たな展開が期待されており、より長期にわたる病気のコントロールが可能となってきています。また胃癌の5%ほどにMSI-Hといった特徴を持った患者さんがおられます。この患者さんに対してはより積極的な免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)の使用が推奨されます。
 上記のような一般的な治療に加え、治験や臨床試験として一般の病院ではまだ使用していない新薬や治療法を提案させていただくことがあります。それは新たな治療を患者さんにお届けするための、我々の責務でもあると考えています。
 薬物療法の進歩はめざましく、たいへん複雑になってきていますので専門の知識のある腫瘍内科医による早い段階からの治療が患者さんの運命を変える可能性も出てきています。がん治療についてご心配な事があれば多数の専門医がいる近畿大学腫瘍内科の外来に気軽にご相談下さい。

図1 胃癌薬物療法で使用可能な薬剤

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