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2023/02/05

内科学教室(脳神経内科部門)永井主任教授が、米国科学雑誌 Molecular Cellの特集記事にてコメントを発表

リピート病から明かされる生物学の基本常識(セントラルドグマ)の新展開 ~リピート配列が与えるタンパク質構造への影響について~

家族性脊髄小脳失調症やハンチントン病、家族性筋萎縮性側索硬化症の一部、筋強直性ジストロフィーなどの神経・筋難病は、遺伝子内の3~6塩基程度の短い塩基配列(CAGCTGGGGGCCなど)の繰り返し(リピート)回数の異常伸長が原因となって発症することが知られており、これらはリピート病と呼ばれています。

最近、リピート病の研究から、遺伝情報はDNAからRNAに写しとられて、それを基にタンパク質が合成されるという生物学の基本常識(セントラルドグマ)を揺るがす新事実が次々と明らかになり、この分野の世界トップの専門家の意見を集めた特集記事が世界的権威の科学雑誌Molecular Cell誌(IF=19.328)に掲載されました。

近畿大学医学部の永井義隆主任教授は、リピート配列の伸長がタンパク質の構造に及ぼす影響について、次のような意見を述べています。「以前の研究でCAGリピート配列から翻訳されるポリグルタミン鎖が伸長するとタンパク質の構造が不安定になり、βシート構造と呼ばれる構造へ変化して凝集体を作りやすくなり、これが脳内などに蓄積して病気が引き起こされることを明らかにしました(Nagai et al, 2007, )。最近、このような伸長リピート配列がタンパク質合成開始に必要な開始シグナルがない場所にあってもタンパク質が合成されるという、これまでの常識をくつがえす新しいタンパク質合成機構が明らかになりました。また、βシート構造へ変化した凝集性タンパク質は、正常構造のタンパク質のβシート構造への変化を促進させて凝集体が次々と増幅して伝播し、DNAを介さずに病気が伝播するというプリオン仮説をスタンリー・プルシナー博士は提唱しましたが(1997年ノーベル生理学・医学賞を受賞)、その詳しい仕組みは未だベールに包まれたままです。

私たちはこのような神経・筋難病の治療薬の開発をめざした研究を進め、アミノ酸であるアルギニンが伸長ポリグルタミンタンパク質のβシート構造への変化を抑えて、脊髄小脳失調症のモデルマウスで治療効果を発揮することを2020年に発表しました(Minakawa et al, 2020, )。

現在、脊髄小脳失調症患者さまに対するアルギニンの医師主導治験を当院にて行っており、このような研究から神経・筋難病の治療薬が見つかることが期待されています。」

研究室写真.jpg

研究室で実験を行う永井主任教授(右)

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