概要:
甲状腺は、首の前側、のどぼとけの下にある臓器で、体の代謝を調節する甲状腺ホルモンをつくっています。甲状腺腫瘍とは、甲状腺の中にしこりやできものができた状態を指し、「甲状腺結節」と呼ばれることもあります。甲状腺腫瘍には良性と悪性があり、悪性のものは甲状腺がんと呼ばれます。甲状腺のしこりの多くは良性ですが、悪性の可能性がないかを適切に調べることが大切です。甲状腺がんにはいくつかの種類があり、進行の速さや治療方針は種類や病状によって異なります。
症状:
甲状腺腫瘍は、自覚症状がないまま、健診や頸部超音波検査、他の病気の検査で偶然見つかることがあります。症状がある場合には、首の前側のしこりや腫れ、のどの違和感などとして気づかれることがあります。
腫瘍が大きくなったり、周囲に影響を及ぼしたりすると、声のかすれ、飲み込みにくさ、息苦しさ、痛みなどがみられることがあります。また、まれに甲状腺ホルモンを過剰につくる腫瘍では、動悸、発汗、体重減少などの症状が出ることがあります。
甲状腺がんにはいくつかのタイプがあり、最も多いのは乳頭がんです。ほかに濾胞がん、低分化がん、髄様がん、未分化がんがあり、種類によって進行の速さや治療方針が異なります。
診察では、頸部超音波検査を中心に、必要に応じて血液検査、穿刺吸引細胞診、CTなどを組み合わせて評価します。腫瘍の広がり、リンパ節転移の有無、気管や反回神経への影響、甲状腺ホルモンの状態を総合的に判断し、患者さんごとに治療方針を決定します。
良性腫瘍の場合は、すぐに治療を行わず、定期的な診察や超音波検査で経過をみることがあります。ただし、腫瘍が大きい場合、圧迫症状がある場合、外見上気になる場合、悪性の可能性が否定できない場合などには、手術を検討します。下記は主な手術対象となる疾患です。
(1)大きな良性結節・腺腫様甲状腺腫
良性と診断されていても、しこりが大きい、短期間で増大する、気管や食道を圧迫している、整容面で気になる場合には手術を検討します。
(2)濾胞性腫瘍(濾胞腺腫を含む)
細胞診で「濾胞性腫瘍」と判断された場合は、細胞診だけで良性・悪性を完全に見分けることが難しいことがあります。超音波で悪性が疑われる場合、腫瘍径が大きい場合(目安として3〜4cm以上)、増大が速い場合などでは手術が勧められます。
(3)バセドウ病/プランマー病
薬物療法でコントロールが難しい場合、副作用のため薬剤継続が困難な場合、大きな甲状腺腫を伴う場合、早期の根治治療が望ましい場合には、手術が選択肢になります。
甲状腺腫瘍に対する内視鏡下手術は、首の正面に大きな傷を作らず、鎖骨下や前胸部、腋窩、口腔前庭など目立ちにくい部位からアプローチする低侵襲手術です。日本では、良性腫瘍・バセドウ病に対して2016年、悪性腫瘍に対して2018年から保険適用となりました。
当院では、良性・悪性の双方に対して、保険収載された内視鏡下甲状腺手術を実施しています。従来の頸部切開手術と同様に安全性と根治性を重視しつつ、整容面に配慮した治療を提案しています。
とくに前頸部の傷が目立ちにくいことは、日常生活や就労、対人場面における心理的負担の軽減につながります。適応には腫瘍の大きさ、位置、周囲臓器との関係などの条件があるため、外来で丁寧に評価して方針を決定します。
(1)手術
甲状腺がんの治療の中心は手術です。病変の広がりに応じて、甲状腺の片側を切除する片葉切除術、甲状腺をすべて摘出する全摘術を行います。必要に応じてリンパ節郭清を追加します。
手術では、がんを確実に切除することに加え、声に関わる反回神経や甲状腺ホルモン低下、カルシウム調節に関わる副甲状腺への配慮も重要です。
(2)放射性ヨウ素内用療法
分化型甲状腺がんでは、術後の再発予防や残存病変・遠隔転移の治療目的で、放射性ヨウ素内用療法を行うことがあります。
(3)TSH抑制療法・薬物療法
乳頭がんや濾胞がんでは、再発リスクに応じて甲状腺ホルモン薬を用いたTSH抑制療法を行うことがあります。再発・転移例では、病状に応じて分子標的薬などの薬物療法を検討します。未分化がんでは外照射や化学療法が組み合わされることがあります。
当院では、甲状腺がんの治療選択をより的確に行うため、オンコマインDx Target Test CDxシステムなどの遺伝子検査を積極的に活用しています。RET融合遺伝子、BRAF V600E変異、RET遺伝子変異などを調べ、分子標的薬の適応判定に役立てます。
とくに再発・転移例や髄様がんでは、遺伝子異常の情報が治療薬選択に直結することがあります。病理診断、画像診断、遺伝子検査を組み合わせることで、患者さんごとに適した治療戦略を提案します。