タバコの煙には7000以上の化学物質が含まれ、60以上の発がん物質が含まれます。そのため、タバコは、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、脳血管疾患、歯周疾患など多くの疾患、低出生体重児や流・早産など妊娠に関連した異常のリスク因子であるだけでなく、肺がんをはじめとして喉頭がん、口腔・咽頭がん、食道がん、胃がん、膀胱がん、腎盂・尿管がん、膵がんなど多くのがんのリスク因子であることがわかっています。
タバコを吸っている本人だけでなく、周囲の喫煙者のタバコの煙による受動喫煙も、肺がんや呼吸器疾患、虚血性心疾患、乳幼児突然死症候群などのリスク因子となっています。
近畿大学奈良病院では、患者さんと職員の健康維持・促進のため、2008年より病院敷地内での全面禁煙を行っています。
がんの部位別にみた死亡についての相対危険度(非喫煙者を1とした時の喫煙者の危険度)
出典:厚生労働省ホームページ
タバコ煙に含まれる一酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)、ニコチンやタールなどの成分によって手術前後の身体に様々な悪い影響を及ぼします。COは組織を低酸素状態にし、NOは身体の組織の破壊を促進しますので、術後の感染がおこりやすくなります。ニコチンは心臓に負担をかけるだけでなく、痰を増加させます。また、タールによって、痰が粘り強くなり、痰がうまく出せなくなりますので、術後の肺炎をきたしやすくなります。
喫煙者の非喫煙者に対する周術期合併症の相対リスク
Grønkjær M et al. Ann surg 2014;259:52-71より作成
出典:厚生労働省ホームページ
禁煙をすることによって、術後の呼吸器合併症だけでなく感染性の合併症を減らすることができます。禁煙期間が長ければ長いほど術後合併症のリスクが低下しますが、最低3-4週間は必要とされています。ですから、当院では緊急を要する手術でない限り、禁煙がきっちりとできていることを確認してから手術を行うようにしています。電子タバコ、加熱式タバコの手術に及ぼす影響に関するエビデンスは少ないですが、電子タバコの禁煙も必要です。
肺癌をはじめ多くの癌の発症を予防し、手術時の合併症を減らすためには、禁煙が重要です。しかし、ニコチン依存症からの離脱症状により不成功となる場合が少なくありません。確実かつ効果的に禁煙するために、2006年度から禁煙治療に対する保険診療が開始されました。必要な要件を満たしていれば、ニコチン置換療法さらに2008年からはバニレクリン(チャンピックス®)による禁煙治療が可能となっています。
以下の要件をすべて満たした方のみ、12週間に5回の禁煙治療に健康保険が適用されます。