2020年04月01日
人間の体の細胞は細胞分裂することで絶えず入れ替わっており、新しい細胞が誕生しています。しかし、細胞分裂は完璧ではなく、細胞分裂に失敗した「傷ついた細胞」も誕生しています。傷ついたほとんどの細胞は、体内の修復機構によって修復されて正常な細胞となり、修復不可能な細胞は、その細胞を排除することで、体内には常に正常な細胞しかない状態を保とうとしています。
しかし、残念ながら「傷ついた細胞」の中には修復に失敗し、また排除されることなく生き残る細胞も存在します。この「生き残った傷ついた細胞」の中で「腫瘍となる条件」を満たした細胞が増殖していくと良性腫瘍や悪性腫瘍となってしまいます。細胞が傷つく原因には上記のような細胞分裂時の失敗のほかにも、喫煙や過度の飲酒、ウイルス、ストレス、食生活、運動不足、紫外線などさまざまなものが刺激となっており、現代社会ではいくら健康や食生活に気を付けても避けられない病気となっています。
日本の最新のがん統計によると、2018年にがんで死亡した人は373,584人(男性218,625人、女性154,959人)、2016年に新たに診断されたがん(全国がん登録)は995,131例(男性566,574例、女性428,499例)とされています。
がんによる死亡率は30%で死亡原因の1位となっています(2位:心疾患、3位:老衰、4位:脳血管疾患)。
人間の細胞はブドウ糖を栄養源に活動をしています。がん細胞も例外ではなくブドウ糖を栄養源に成長しています。がん細胞は成長が速いため正常細胞よりも多くのブドウ糖を消費しています(図)。PET検査はこの点を利用した検査です。
ブドウ糖に放射性同位元素をつけた18F-FDG(FDG)という薬剤を投与すると、がん細胞はブドウ糖と一緒にFDGをたくさん取り込み、がん細胞から微量の放射線が出るため、体内の放射線を検出するPETカメラ(写真1)でがんが映ります(画像1、2)。PET検査に使用するFDGは日本核医学会および日本アイソトープ協会が定めるガイドラインに準拠し、サイクロトロン(写真3)と合成装置を使って、検査当日に製造して品質管理試験に合格したものを使用します。この薬剤による副作用の心配はありません。
がんは、進行程度のどの段階で発見、治療するかで、その後の生存率が大きく違ってきます。PET検査はおよそ1cm前後のがんも発見することができるため、病変の部位やその周囲への広がり(画像1)、さらに転移巣などの遠隔部への広がりを正確に評価できます(画像2)。つまり、手術、化学療法など病期に合わせた適切な治療法の選択が可能になります。
例えば肺がん検診は肺だけ、胃がん検診は胃だけの撮影しか行いません。しかし、PET検査は一度に全身の撮影を行うため、全身のがんを見つけることも可能で、検診としても非常に優れている検査といえます。
当院は2005年10月にがん診療において高度医療へのさらなる取り組みの1つとして、がんの早期発見、進行度診断などに有効なPET装置を大阪南エリアとしては初めて導入し、高度先端総合医療センターPET分子イメージング部を設立し運営しています(写真2)。同部にはFDG製剤を作成するサイクロトロン(写真3)と合成装置をはじめ、PET検査用のPET/CTを設置しています。